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かつて安倍官房長官と対決した高市早苗・前総務大臣のいたってまともな皇位継承論

斎藤吉久

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かつて安倍官房長官と対決した高市早苗・前総務大臣のいたってまともな皇位継承論
(令和3年8月28日、土曜日)
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自民党総裁選に出馬を表明した高市早苗・前総務大臣が、雑誌インタビューに応え、皇位継承問題について、男系継承の維持を強調した。「万世一系という2000年以上の伝統は、天皇陛下の『権威と正統性』の源だ」と語っている。きわめてまともである。

高市氏が男系継承維持を訴えたのは、今回が初めてではない。高市氏の個人ブログには、15年前、2006年(平成18年)2月1日更新の「皇室典範問題について」と題するコラムが載っているので、ご紹介したい。〈https://www.sanae.gr.jp/column_detail256.html〉

ちなみに、皇室典範有識者会議が「女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠」との報告書をまとめたのが前年11月で、悠仁親王の御誕生はこの年の9月。皇位継承の根幹が覆りかねない、危なっかしい時期だった。


▽1 皇室典範有識者会議直後の国会で質問

高市氏のコラムは、内閣府職員の来訪で始まっている。1週間前の1月25日、皇室典範一部改正のための法律案概要についての説明がその目的だった。まだ条文化されていない、ごく簡単なペーパーには、以下のような「改正のポイント」が綴られていた。

(1)皇位継承資格者に、皇統に属する女子及びその子孫の皇族を含める(現行では、皇統に属する男系男子に限定)。
(2)皇族女子は、婚姻しても皇室にとどまる(現行では、皇族女子は婚姻により、皇室を離れる)。
(3)皇位継承順序は、直系の長子を優先することとする(現行では、直系・長系・近親優先)。

要するに、「女性天皇容認」「女系天皇容認」「第1子優先」が皇室典範一部改正の骨子だった。有識者会議の直後であれば当然だった。

しかし高市氏は一読して「不安に思った」。とくに、「皇族女子が婚姻後も皇室にとどまる」とすれば、「皇室予算にも変化が生じる」。そこで高市氏は、2日後の1月27日の衆議院予算委員会で急遽、質問することにした。

当時は第三次小泉純一郎内閣(改造)で、この案件の担当閣僚は安倍晋三官房長官だった。短い割り当て時間で、ほかにもテーマはあったから、関係項目はわずか2点。結局、安倍長官の考え方を聞くにとどまったが、その後も続いてきた議論の核心をつく本質的な内容だった。


▽2 官僚の作文を読まされた安倍長官?

高市氏はまず女系継承への危惧を語った。

「私自身は、『女性天皇』には反対しないが、『女系天皇容認』と『長子優先』については、慎重に検討していただきたいし、党内でも議論を深めたいと希望している。
 恐れ多い例えではあるが、仮に、愛子様が天皇に即位されたら、『男系の女性天皇』になられる。そして、愛子様が山本さんという皇族以外の方と結婚されて、第1子に女子の友子様が誕生し、その友子様が天皇に即位されたら、『女系の女性天皇』となられる。
 この友子天皇の男系の祖先は山本家・女系の祖先は小和田家ということになるから、今回の法改正により、2代目で天皇陛下直系の祖先は女系も男系も両方民間人になる可能性がある。
 また、男親から男の子供、つまり『男系男子』に限って正確に受け継がれてきた初代天皇のY1染色体は途絶する。
 男系の血統が125代続いた『万世一系』という皇室の伝統も、『天皇の権威』の前提でもあると感じている。
 官房長官は、皇位が古代より125代に渡って一貫して『男系』で継承され続けてきたことの持つ意味、皇室典範第1条が『男系男子による皇位継承』を定めている理由は何だったとお考えか?」

高市氏は言及していないが、近代以降の終身在位制のもとで、女帝が立てられる状況というのは近代以前とは異なり、けっして「中継ぎ」ではないから、女性天皇容認は取りも直さず女系継承容認を意味し、万世一系の歴史と伝統を侵すことになる。

その暗黙の前提に立って、政府は男系継承主義の意味に配慮したうえで、皇室典範の一部改正案を提出しようとしているのか、と問いただしたのである。これに対して、安倍官房長官の答えは不十分だった。

「憲法第2条に規定する世襲は、天皇の血統につながるもののみが皇位を継承するということと解され、男系、女系、両方が含まれる。
 皇室典範第1条が男系男子に限定してることについては、過去の事例を見る限り男系により皇位継承が行われてきており、それが国民の意思に沿うと考えられること、女性天皇を可能にした場合には、皇位継承順位など慎重な検討を要する問題があり、なお検討を要すること、男性の皇位継承者が十分に存在していること、この3つが当時の国会の論点だった。
 男系継承の意義については、学問的な知見や個人の歴史観、国家観に関わるもの。私は官房長官として政府を代表する立場なので、特定の立場に立つことは差し控えたい。
 いずれにしても、政府としては、男系継承が古来例外なく維持されてきたことの重みを受け止めつつ、皇位継承制度の在り方を検討すべきものと考える」

安倍氏の答弁を読むと、少なくとも当時の安倍氏は、「保守派」との評価とは全然異なり、男系継承の基本をまるで理解していない。「皇位の世襲」とは単に血がつながっていることだと言わんばかり。官僚の作文を読まされただけなのか。


▽3 「皇位継承の安定化」の目的は?

次に高市氏が質問したのは、政府が皇室典範改正作業を急ぐ理由である。

「昨年11月下旬に提出された有識者会議報告書が法案のたたき台だと思うが、まだ多くの国会議員は報告書を入手していない。国民の皆様の理解も進んでいないと思う。
 また、『女系天皇』が即位される可能性は、皇太子殿下が『男系男子の天皇』として即位され、現在4歳の愛子様が『男系女子の天皇』となられた後、数十年先に即位されるかもしれない天皇のことなので、まだ十分に検討の時間はあると思う。
 今国会で急いで皇室典範一部改正法案を提出される理由は?」

これに対する安倍長官の答弁が興味深い。政府が考える「皇位継承の安定化」の本当の目的を図らずも暴露している。

「皇位継承は、国家の基本にかかわる事項。天皇が内閣の助言と承認のもとに内閣総理大臣や最高裁長官の任命、国会の召集など重要な役割を担う以上、どのような事態が生じても、安定的に皇位が継承されていく制度でなければならない。
 皇太子殿下の次の世代に皇位継承者が不在であるという不安定な状態は、早期に解消される必要があると、政府は考えている。
 将来の皇位継承者には、それに相応しいご養育を行う、いわゆる帝王学だが、その必要を考えれば、緊急の課題である。
 このような認識から議員各位や国民の皆様のご理解を賜りながら、今国会に法案を提出していく考えだ」

つまり、政府にとっての「皇位の安定化」は、これまで何度も指摘してきたように、「皇統連綿」でも「皇室弥栄」でもなく、あくまで「国事行為の安定化」でしかない。要するに、政府にとって、天皇は国事行為をなさる特別公務員という位置付けに過ぎない。

しかし、高市氏はそこを追及することはしない。「なぜ急ぐのか?」「なぜ今国会か?」と問い続けるばかりであった。

「まだ40代の皇位継承者が複数おられる中で、今国会で慌てて提出される必要があるのか。
 私たち日本人にとって、祖先が守り続けてきた非常に大切な伝統をどう変えるのか、守るべき伝統は何で、変えるべき伝統は何なのか、という議論も深めたいので、十分な議論の時間をいただきたいと希望する」

なぜ皇位は男系で紡がれてきたのか、そもそも皇位とは何か、を議論するには時間が短すぎたのであろう。質疑はここで終わっている。平行線である。


▽4 安倍官房長官の路線継承はあり得ない?

他方、高市氏のコラムは続き、「いずれ法案が条文化されたら、党の内閣部会などで、安定的な皇位継承の対案も含めて、積極的に議論に参加したい」と希望を述べ、次のような意見を表明している。

「これは、単純に『男女平等』などという価値観で判断してよい問題ではない。
 私は、『女系』『長子優先』には幾つかの懸念を覚えるものの、決して『女性天皇』に反対しているわけではないが、現実的には女性が皇位を継ぐということ自体も、肉体的には大変なことなのだろうと想像している。
 多くの国事行為、外国賓客への対応、宮中祭祀など、お休みの間もなく過密なご日程ををこなされている天皇陛下。皇位につかれた女性天皇が、激務をこなしながら、お世継ぎを妊娠し、出産されるということも、肉体的にも精神的にも想像を絶する大変なことなのだろうと思う」

たしかに現代の天皇は激務である。御公務は無限に増えていくが、生身の天皇には肉体的限界がある。だから先帝も「譲位」を表明せざるを得なかった。

それはそれとして、高市氏はいま「アベノミクス路線の継承」を明らかにしている。けれども、安倍氏の官房長官時代の皇位継承論の「継承」はあり得まい。

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