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【映画感想】悪魔と夜ふかし

観てきた。悪魔と夜ふかししてきた。

70年代アメリカ、とあるテレビ番組の生放送中にどえらい放送事故が起きたんすよ~というのを、その番組本編と舞台裏の映像を往ったり来たりしながら追っていくというファウンドフッテージもの。

とても楽しめた。個人的にかなり好きなホラー映画の1本となった。
これ、配信されたらなんとかかんとかしてブラウン管テレビとかで観たいっすね。

ここからスクロール後ネタバレなどを気にせず書く













最初の数分のダイジェスト説明の時点でもう「終わって」いて、あ~もうこっから先良いことは何も起こらないですね~という絶望の開幕だった。

視聴率のために過激な放送を追い求め、余命わずかの最愛の妻すら視聴率に捧げ(そしてライバルに負け)、それでもなお注目を集めるための放送に臨もうとする司会者。もう駄目である。もう映画が始まってVTR前のナレーションが終わった時点でもう、人としての何かを失っているし、すでに確実に「視聴率」に取り憑かれている。
起承転結の結をゆ~っくり観ているような、映画冒頭から主人公はもう後戻りできなくなっていた。

で、始まる生放送。当然のように連続する怪現象。モキュメンタリーホラーだからそれは当然のこととして、本作は差し込まれるBGMやアイキャッチが特徴的だった。
場違いなほどに明るい音楽や、今じゃないだろ!というタイミングで挟まる「チャンネルはそのまま!」的なアイキャッチは、映画全体のテンポ感やエンタメ性を支えていた。

ともすれば素人が撮影したような薄暗い映像を何分間も見続けることになるモキュメンタリーホラーにおいて、生放送をそのまま流すという設定は「退屈さ」を克服する手段として有効だったように思う。
飽きや退屈をほとんど感じなかったモキュメンタリーは、今作が初めてだったかもしれない。

で、例のシーン。悪魔初登場もミミズも良かったけど、やっぱり祭りは例のシーン。あまりにも合成すぎるCGに最初は笑っていいのか怖がればいいのか面食らった。
が、ラストシーンで印象がひっくり返った。

悪魔大爆発!後、画面がグーっと横に広がり、画質がグーンと上がり、始まるのは主人公の悪夢のようなカットたち。
その最後、主人公が妻にナイフを刺して正気に戻ると、悪魔大爆発!直後と思われるスタジオが映る。

このスタジオの、静寂。

4:3の70年代画質ではあんなに合成チックだったのに、16:9の高画質で見せつけられる静かな終焉の絵。
これがなんだかすごい、生々しくて、さっきまで見てた映像と実際に起こったことのギャップを感じて、その溝に現実味を感じてしまった。

エンドロールへの入り方も好みだった。この後主人公はどうなってしまったのか……と考えずにはいられなかった。まぁその答えも映画でリリーが言っていて、「アメリカで一番有名な司会者」になったんだろうというのはわかっているのだけれども。

劇中、いかにも役立たずな科学主義者としてふるまっていたコメンテーターが、自らの催眠術で「悪魔はいない」という仮説をかなり強めに立証するシーンも良かった。
邪魔なやつ、で終わらない。彼も彼なりのロジックで行動をしていて、実力があった。だからこそ起きた悲劇でもある。登場人物の思惑が物語のギミックになっている。

リリーの執拗なカメラ目線、ふとした時に混ざるノイズ。
細かなところにもサービスたっぷりの、楽しいエンタメホラー作品だった。

私は最近のモキュメンタリーホラーにイマイチ乗り切れなかった人である。
白石監督作品は好きだし、ホラーも好きで、だから流行りのモキュメンタリー映像群も楽しめるだろうと臨んでいた。
でも、いまいちハマり切れなかった。なんで、と言われると難しいのだが、なんか、「嘘じゃん」と思ってしまった。
嘘なのは当然のことなのに、何かが不満だった。
何が不満だったか、この映画を見て少しわかった気がする。
私はホラーもモキュメンタリーも好きだけど、テンポの悪い映像が好きなわけではないのだ。素人の録画した映像が好きなわけではないのだ。
私は、映像作家が作る飽きないエンタメ映像が好きなのだ。
つまり私は、モキュメンタリーという手法で撮られた上でエンタメ性の高いホラー映像作品を求める、とんでもなくめんどくさいお客様だったのだ。

この私の要望にバッチシ応えてくれた数少ない作品のひとつが、「悪魔と夜ふかし」だった。
この作品を楽しめたことが本当に嬉しい。やっぱりいつの日か、深夜に部屋の電気を消して、ブランケットをかぶりながら、ブラウン管でこの映画を流したい。ポテトチップスとコーラを片手に、悪魔と夜ふかしをしたい。


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