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夜空を漂う流氷の天使・クリオネ【2000文字シリーズ】

ここのところ、寒くなったり温かくなったりと
天気も思う存分に気分屋を発揮しておりますね。

皆さん、体調はいかがですか?
急な気温の変化でお身体を崩さないように
充分お気をつけくださいね。ほんとに。

猫目はすこぶる元気ですが、記事の案件などが
上手くいかないと「体調悪いなあ」などと
言い訳を放っております。

病は気からと言いますので、
前向きに頑張ってまいりたいと思います。

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さて今晩は……

夜空に浮かぶ乳白色の雲。その合間に顔を出す
美しい半月。その月の周りに一点の赤い模様の
ようなものが見えた「ある夜」の夢のお話をし
ていきたく思います。

夢で見たものをそのまま、小さな物語へ。

『夜空に浮遊する流氷の天使』

 冬の夜風に春の匂いが混じっていたある晩、私は田んぼ道を宛てもなく走っていた。走っているのは自動車であって私ではない。しかも今乗車している桃色の軽自動車は、私のものではない。本来、私の乗っている愛車は薄いグレーの普通車だから。
 ここで、私は初めて、自分が夢の中にいることを悟った。
「ね。綺麗な空が広がっているから、見てごらんよ」
 まるきり姿の見えない誰かが、冷たい吐息だけを残して耳元で囁く。
「ね。車を降りてさ、月を探してご覧になってよ。今晩の月は小さなお友達を連れているのよ」
 氷のように冷たい声は、優しく私に話しかける。しかし、夢なのだ。私だってすべてが思い通りになるわけではない。とりわけ今は夢という無限の空間に支配されている。
「ね?いったん、車を降りて、月を眺めて見ないかしら?」
 私の口角は硬直していて、思うように動かなかった。しかし、姿の見えない何者かの放った次の言葉で、私は思わずハンドルを放してしまう。
「あら?あなた、ひょっとしてこれが夢だって気が付いてるのね?

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 ハンドルを放した自動車は自由に道路を走行し始めた。この車は自動運転式の物かしら、と思い安堵したとたん、車は桃色の車体を茶色の泥に染めながら田んぼへ入っていった。
 目を丸くしていると、傍らの少女がこちらへ笑いかけていた。
「大丈夫。なにも心配いらないわ」
 今度は、はっきりと見えた。赤いドレスを着た、幼稚園くらいの小さな女の子が助手席に座って笑っている。
「ほんとうに大丈夫かしら?田んぼを突っ切っているけど……」
「大丈夫よ。あなただって本当は何も心配していないんでしょう?」
 ここが夢の世界だって知っているのだもの、と少女は続けた。

そうだ。ここは夢なんだ。それじゃあ、なにが起こっても問題はないわ。
そう思い、私は勢いよく運転席のドアを放ち、田んぼの中へ飛び出した。もちろん、少女の手を掴んで。……
「ね。大丈夫だったしょう?」
 少女の声の淡泊さはいつの間にかなくなっていた。私の隣を歩いている彼女は肉声をもってして、私に言葉を投げかける。
「ね。月見えた?」
 田んぼからワープして、砂利道に出た。どこの砂利道だか無論知らない私は、夜の空気によって冷たく乾燥した砂利の上を小気味の良い音を立てて歩いた。靴はしっかり履いているようだ。
 隣の少女は絶えず笑っている。ここまで笑顔でいられると、真顔になった時が怖い。もしくは、彼女の口角は極寒の寒さにより、硬直してしまったのかもしれない。
「ね?月の周りに、いる、でしょう?」

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 私は少女の顔を照らす月明かりをそっと追って、空を見上げた。
「ね?泳いでるでしょう?あのコ」
「ほんとうだ、泳いでる」
 満点の星はどれも皆、躍動しているようだった。紺色の夜空には大きな乳白色の雲がぽかんと浮かんでいた。雲は風の流れに逆らって、その場所に居座っている。
 傍らの少女に、「あの雲、動かないよ」と言った。すると少女は今度こそ弾かれたような満面の笑みを浮かべた。その幸せそうな顔のまま、彼女は地面を蹴飛ばした。
 空へと駆けていくとき、少女は私に教えてくれた。
「あの雲は、半月と、流氷の妖精を守っているの」
 流氷の妖精か。たしかに言われてみれば、アレはどう見たって妖精だ。透き通るような赤いハートを体の中心に持っている、小さな妖精。その妖精には、半透明の三角の耳がふたつ生えている。そうして妖精は柔らかいシルクのような上品な羽を広げて飛んでいる。いいや、舞っている。

「あの妖精は月の周りでお祝いをしているの」
 空高くまで昇っていった少女の声が、私の鼓膜をそっとくすぐった。
「なんのお祝いだろう?」
「ふふっ。それは、わたしが今夜、夜空の一員になることのお祝いよ」
 少女は高く高く昇っていき、やがて流氷の妖精の隣で、同じように宙を舞った。

おしまい。

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それでは今日はこの辺で。
皆さんいつもありがとう。

明日も寒いみたいだから
身体を大切にしてくださいね。

それでは、また明日!





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