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常套句



「だから、お前は結婚に向いていない。」

あなたはこの言葉を言われたことがあるだろうか。友達同士の他愛もない会話の中では聞いたことがあるかもしれない。


だが、私はこの言葉を、両親、兄妹、祖父母、親戚に至るまで言われて育ってきた。

私がこのように言われるようになったエピソードを紹介しようと思う。

世間一般では、成人を迎えると、「お前のお嫁さんはどんな人なんだろうか。」「早く孫の顔が見たいな。」などと家族に言われると周りからよく耳にするし、兄と妹がそういった言葉を親戚が集まった際にはよく言われていた。

私には、年子の兄と2つ下の妹がいる。

兄は、見た目はよく言えば、
EXILEのSHOKICHI。
悪くいえば、ミキの昴生にそっくりである。
そんな兄でも彼女が居ることもあるわけで、あの見た目で歴代彼女は可愛いからこの世は不条理極まりない。

妹は3時のヒロインのゆめっちに似ていて、すでに家庭を持っている。笑うと麒麟の川島にそっくりな旦那さんは、妹の中学生からの同級生であり、交際10年を経て昨年結婚した。

妹はすでに結婚しているが、兄も妹も両親からすれば、将来、家庭を持つ対象であるが、私に対しては違った。

あるとき、母親の手料理を褒めようと思ったときがあった。

褒めようという言い方に対して変に思った人もいるだろうが、ここは気にせず読んでもらいたい。

母親はとにかく料理が下手であり、そして料理自体が嫌いだ。

3分クッキングを観て、今夜これを作ろうと言いだしても、材料と調味料を勝手に変えて別の代物を作り出す達人である。それで美味しいのなら文句はないが大抵微妙に不味い。微妙に不味いものを作る大会があったらぶっちぎりで優勝し殿堂入りするであろう。
それでも、家族5人分を作るわけで、主婦として大変なのだから、不味いと言うと母の機嫌は悪くなる。


これまで読んで察した人もいるかもしれないが、私は、世間一般でいう口の悪い人である。良く言えば、自分に素直で正直で、思ったことを言っているだけであり、悪いという認識はさらさらない。

そして、私は小さい頃から母親の料理に対して、素直に感想を言ってきた。
「味薄い」「固い」「臭い」などなど。
正直おいしいと言ったことは本当に少ない。

こんなことばかり言うから、家族から「お前は将来、結婚相手に気が遣えないだろう」などと言われて来た。
そして、母親からは、文句があるなら自分で作れと言われるので、自分で料理をすることが増え、おかげで中学の時から家庭科では5しか取ったことがないし、今では人並み以上に料理はできる。

ともあれ、なぜ褒めようと思ったのかというと、テレビで芸能人が夫婦円満の秘訣を紹介していた。とにかく褒めることが大切であると。
美味しくないのはわかっていても、何か良いところを見つけて褒めることでプラスに働くと言っていたことをふと思い出したからである。

褒めて母親の料理が少しでも美味しくなるなら願ったり叶ったりだ。
母親の機嫌が悪いと、ただでさえ悪い料理の質がさらに悪くなる。
父、兄、妹は料理ができないので、他のことで母親に対して文句はあっても、それだけは避けたいと考えていた。


そして、夕食時、家族が揃い、いただきますをする。
今日のおかずはハンバーグだ。
我が家のハンバーグは柔剛の2つの顔がある。
ポロポロと崩れるやわらかいものか、肉汁が全てなくなってパサついた固い塊のどちらかだ。

敵の正体がわかっていれば対策はしやすい。
まあ、どちらであろうと、おいしいという4文字を言えばいいだけなのだから楽勝である。
そして、ひと口食べる。



「今日は固い日か。」



やってしまった。
試合開始早々で、自ら場外に出てしまった。

おいしいと言う前に、どちらなのかということを考えていたら、口に出てしまったのである。

案の定、母親の機嫌は悪くなり、父、兄、妹から罵声を浴びせられた。



また別の日。


このときは特に褒めようと考えていたわけではないが、自然と褒め言葉を口に出した。

今日の夕飯はメンチカツ。
隣に添えられたキャベツはいつもの如く、二郎系ラーメン並みに太い千切りである。
テレビを見ながらメンチカツをひと口。



「おいしいな」



私はとても驚いた。メンチカツがおいしいことおいしいこと。それ以前に、兄が妹が、父すら私が美味しいと言ったことに驚いていた。


だが、肝心の母親はピクリともしない。それどころか若干不機嫌にすらなっている。



そして、母親から一言。




「これ、ヤオコーのやつね。」




その瞬間、父、兄、妹の冷たい目が一気に私に向けられた。
私は、やってしまった、と同時に、どうりで美味しいわけだとヤオコーさんに感謝した。

「メンチカツちょうど食べたかったから良かった」となんのフォローにもなっていない台詞を言った翌日、剣道の大会があった私はお昼にお弁当箱という名のタッパーを開けると、そこにはメンチカツが2個入ってるだけであった。

結局、褒めて美味しくなるどころか、弁当の質さえも悪くなってしまった。

「だから、お前は結婚に向いていない。」
これが私への常套句である。

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