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定期演奏会の振り返り。

「5月の定期演奏会の録音CDが出来たから、取りにおいで。」
私の所属するアマオケのTさんから連絡があった。

指定された場所へ行くと、TさんとTさんの奥様が待っていた。
Tさんはファーストヴァイオリン、奥様はセカンドヴァイオリンだ。

「ご連絡ありがとうございます。CDいただきに来ました。」

ご苦労さん、とTさん。
「拍手を無くしても1枚じゃ収まらなくてね。2枚組になったよ。」
「スペシャルアルバムみたいですね。」

「夜さん、チェロパート凄かったね。たくさんパート練習していたものね。」
と、奥様。

チェロパート部分がとても難しい曲だったから、どのパートよりも沢山みんなで練習した。

「練習の成果が出ているといいのですが。本番、どんな演奏になったのか気になってました。
帰ったら、早速聴いてみます。
私はこれからチェロレッスンなので、失礼しますね。また7月の総会でお会いします。」

「レッスンって、Kくんが先生だっけ。」
「はい。しごかれてきます。」
「元気ねぇー。私たちはもう体も気力も年だわー。」
奥様がコロコロと笑う。

私はTさんご夫妻のように、80近くになってもステージに立つ体力気力があるのか、自信がない。

           ★

少し前に、県内のパラグライダー愛好家が集まった大会があった。
そこで、久しぶりに私が卒業したパラグライダースクールの校長と話をした。

「5月の定期演奏会聴きに行く予定だったんだけど、お客さんが入って行けなかった。残念だったよ。次は行くからね。」
「いつも気にかけてくださって、ありがとうございます。詳しいことが決まったら、ご案内しますね。」
「うん。それで、その5月の演奏会なんだけど。ボクが夕方に犬の散歩をしていると、公園で必ず会う親子がいるんだよ。お母さんと娘さん。」

話が見えない。

「娘さんは小4で、最近ヴァイオリンを始めたんだって。でね、夜さんのオケの演奏会に行ったんだってよ。」

「へえ!ウチの団員の関係者?」
「違うみたいだよ。宣伝見たんじゃない?
そうしたらね、えらく感銘を受けてね、オーケストラやりたくなったんだって。」

おお〜!

「それなら、Jr.オーケストラに入ったらいいんですよ。今から始めたら、将来有望です。」

「それだけじゃないよ。ヴァイオリンじゃなくてチェロやりたいって言い出したんだって。夜さんのことを見て、憧れを抱いたんじゃない?」

校長、私の肩をバシバシ叩いた。

いやいや、その子が注目したのは私ではなく、トップに座る美人のKさんでしょう。
Kさん、颯爽としていてカッコイイもの。
2プルトの私はお飾りだ。

でも、ありがたく受け取っておこう。
私らの演奏を聴いて、小学生の子まで刺激を受けたなら、とても嬉しい。

           ★

さて。CDを聴くことにする。
一体、どんな演奏になっていたのか…特に後プロのブラームス交響曲第3番の3楽章冒頭、チェロソロが気になる。
私としては、本番が一番よく弾けた実感がある。

最初に3楽章を聴いた。

おお?!いいんじゃない!?

トレーナーM先生がパート練習で
「ちっとも出来てない。ココは天国をイメージして歌いなさい。綿菓子みたいに甘くてフワフワなのよ!」
と、ぜんぜん甘くないご指導をくださった。
本番のこの演奏は、天国に近いのでは?!

ほかの楽章も聴いた。
チェロ、たくさんパート練習した甲斐があって、よく弾けてると思う。
自画自賛とも言えるが、Tさんの奥様が「チェロ、凄かった」と言ってくださったのは、そういうことだろう。

だから、私自身、4楽章を3小節分2箇所落としてしまったのが非常に悔やまれる(ちゃんと皆さんがカバーしてくださった)。

私が気になったのは…ブラ3初っ端の1stヴァイオリンと2ndヴァイオリンのユニゾン。
全然合ってないと思うんですけれど…そう思うのは私だけでしょうか。

1stヴァイオリンはコンマス以外後期高齢者揃いで、耳が遠く、テンポ遅れ気味で演奏がソリスティックになりやすと、コンマスが話していた。

確かに。

プロオケだったらとっくに引退だけど、ココはアマオケだからね。みんなで楽しんでナンボだよね。私もいずれは高齢者になるのだ。

前プロのベートーヴェン ピアノ協奏曲「皇帝」と、アンコールの皇帝円舞曲は、みんなの「この曲、好き!」の気持ちが溢れていた。

お客さんが、学生から高齢者と幅広い年代の揃うこのオケを見て、オーケストラを身近に感じたり、こんなに自由でいいんだと思ってもらえたら、この演奏会は成功だと思う。
だから、小4の女の子の反応は、一つの成功例ではなかろうか。

           ★

次の演奏会の日にちが決まった。
次回は、弦楽合奏団として演奏を行う。
さて、何の曲をやるのか。

「チャイコフスキーの弦楽セレナーデが候補に上がっているそうです。」

チェロレッスンの際、私は先生にそう話した。

「ほう。チャイコのね。エルガーの弦セレは前にやったんだっけ?」
「はい。実は私、学生時代にチャイコもやったんです。ヴィオラで、ですけれど。」
「へえ。」
「当時の学生指揮者がヴィオラの先輩で。集中攻撃喰らって、いい思い出がないです。」

先生が笑った。

「どうしても、自分のパートに耳がいっちゃうからね。
でもね。チャイコの弦セレは、チェロも結構難しいよ。」
私を試すように、ニヤっとする先生。

私、しかめっ面をする。
「え〜。マジですか。苦い思い出の上塗りはイヤだなぁ。曲は好きなのに。」

ぶつくさ言う私に、先生は笑う。

「ま、頑張んなさい。」
「…突き放さないでください。センセのいじわる。」
「はいはい。」
「弾き方がわからなかったら、またセンセの家まで押しかけますからね。」
「わかったよ。」
どうにも笑いの止まらない先生。

今はとにかく、色んな曲にチャレンジしてみたい。
一人で弾ける曲、オケでしか弾けない曲、何でも。

音楽との出会いが生活を豊かにしてくれるように感じるのだ。

まさに、"No music, no life."



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