12月チェロレッスン1回目:バッハ無伴奏チェロ組曲5番
発表会後、初めて先生に会う。
発表会の日は自分の出番を終えた後、いそいそとオケのリハーサルへ行ったため、先生からのジャッジは今回のレッスンでもらうことになる。
果たしてどんなダメ出しを食らうか…。
と思ったら、ご飯がのどを通らなかった。
スープだけ飲んでいく。
****★
レッスン時間ちょうどに到着。
「オケの本番も終わったってね。お疲れ。」
と先生。
先週終演後、「終わりました」と先生にLINEだけ送っていた。
同日、先生は第九のステージに乗っていたはずだ。
「はい。無事終わりました。
センセの弟子の初仕事です。もらってください。」
先生にプログラムを渡した。
先生、ペラペラとめくる。
「ははあ。夜が話していたのはコレか。
8ページフルカラーなの。お金かかってるなぁ。」
団員名簿のページを見入っていた。
「あー、ウチのオケのOBも結構いるんだね…1stヴァイオリンのMさんはN響のOBだよ。2ndのSさんは読響OB。
チェロは…Mさん、Rさん、Hさんは分かるけど、あとは全然分からない。何でだろ?」
狭い業界なので、先生であれば地元チェリストは結構知っているはずなのに。
「チェロ、全然集まらなくて今のコンマスが○○というアンサンブルから何人か引っ張ってきたみたいです。私が入団する前の話です。私も最近知りました。」
先生、驚いて私を見た。
「〇〇?!お前、〇〇のこと、知ってる?」
「名前だけは…。」
先生「ははあ。」と訳知り顔。
「運営はともかく、なんでお前が重宝されたのかの理由が分かったよ。」
「??と言いますと?」
「〇〇の人たち、全然弾けないの。弾けるようになる練習していないから。そこに僕や僕の知っているチェリストは関わっていない。だから僕の知らない人ばかりなんだな。
お前は入団試験受けたんだろ。ある程度弾ける人が欲しかったんだよ。それで今お前は比較的目立つところで弾かされてるんだよ。」
マジか…。
試験って言っても、好きなの弾いてみてって言われただけだけど。
「コレはもうお前退団できないよ。トップに上り詰めるまで頑張りなさい。」
えー…(TT)
****★
「あと、楽器のことで…。」
私は気後れしながら言った。
「また、何かあったか。」
「お察しのとおりです…。」
私は、チェロのくびれのとんがりを先生に見せた。
「あ!欠けてる!一体何があった!?」
「事故に巻き込まれました…。」
私がかくかくしかじかと説明すると(詳しくは次の記事にします)、先生は最初驚いて、続いてため息をついた。
「…そんな状況でよくコレで済んだなぁ。えらいよ。」
「黙っててもどうせすぐにセンセにバレるから、白状しました。」
「うん。賢明だな。」
コレは、後でバレたら怒られるパターンだ…。
話してよかった。
「そこは僕も欠けたことがあるよ。弾くのには支障ないけれど、放っておくのは良くない。欠けた先からボロボロになっていくから。
レッスン終わったら、すぐにKさんに連絡しなさい。」
「わかりました…。」
「よくもまあ短期間で色々あるな。そのチェロ、お祓いしなさい。」
****★
ついに、恐れていた発表会についての先生のジャッジが。
「午前中のリハ、お前緊張しすぎてメタメタだったよなぁ。どうなるかと思った。」
リハだけは録音したので自分でも聴いた。
先生の言うとおり、ひどい演奏だった…。
リハで先生がわーわー言っていたのも十分わかるほど。
「本番じゃ、お前ずいぶん気持ち良さげに弾いてたなぁ。夢中になってたせいで、繰り返しをキチンと弾いたか忘れたんだって?」
「はい…。」
「そんなことあるのか。すごい集中力だな。
大丈夫、全部弾いてたよ。」
確かに、自分で弾いていて自分の音に酔った。
以前「弾いていて気持ち良くなった」と先生が言った時に私は「このナルシストめ。」と思ったけれど。
コレでは人のことを言えない。
「それで…どうだったんですか?」
「まぁ、良かったんじゃない?夜が気持ち良く弾けたんならそれでいいよ。」
ものすごくホッとした。
ヘッダーは、先生が良いカメラで撮ってくれた写真。
「センセ、今度はフォーレの“夢のあとに”を弾きたいです。」
先生のCDに入っていた曲。
先生、ちょっと考え込む。
「フォーレだったらエレジーじゃなくて、そっちなの?」
「エレジーはみんな弾いているから。」
「うーん、まぁいいと思うけど。
エレジーと違ってもともとチェロの曲じゃないから、半分以上高音ポジションだよ。何ヶ月前から始めたらいいかなぁ。追々考えよう。」
そんなこと言って、直前に5番を弾きたくなるかもしれない。
****★
今回のレッスンは、念願のバッハ無伴奏5番プレリュード。
とてもじゃないけれど、5日で全部はさらえず(仕事が忙しく、練習時間がほぼ取れず)、1ページの序奏のみ。
ここをまずクリアすること、言われていた。
最初なので、ポジション移動や運指の確認をしながら弾いた。
「コード、発表会のサラバンドより楽だろう?」
確かに。3番は難しかった。その分、やった甲斐があったと思えた。
「夜はきっといろんな演奏家のものを聴いていると思うけど。現代風なのが多いよね。
でも僕はバロックに忠実に弾きたいんだ。
付点は全部引っ掛けて弾く。
三連符は後ろの方に持っていく。」
ああ、わかった。
夏の定演でやったパーセルのアブデラザールの弾き方だ。
指揮のH先生が、「バロックなんだから、そういう弾き方をしなさい」と散々言っていた。
私の持っている音源はみんな現代風だ。
バロックに忠実に弾いている演奏家の音源、売っているかな?探してみよう。
****★
レッスンを終えて部屋を出てから、すぐに工房へ電話をかけた。
「夜か。また何かあったな。」
私が何か言う前に、職人のお兄さんが言った。
「さすがお兄さん…。楽器の出っ張りが欠けました。訳は行ったら話します。」
「欠けた破片はある?すぐに来られる?」
「破片、あります。
今レッスン終わったので、10分で行けます。」
「じゃあ、すぐに来て。」
私はそのまま工房へ向かった。