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5月チェロレッスン②:『文句があるなら、僕に言え。』

先週末のオケ練習でチェロ1stをトップで弾いた私。指揮のH先生に弦楽六重奏2楽章、4楽章で干された。

コレはもう、一人では無理だと思った。
どうしようかと悩んだ末、やはりチェロ師匠に助けを求めることにした。

・楽団のパートリーダーと首席にパート内の現状を聞いた。首席がいない今、私が首席に座るしかない。
・2楽章G〜Hと、4楽章Q〜Rについて、指揮者の言う通りに弾けず、怒られた。
・もう自分じゃどうしようもないので、教えてほしい。

という内容のメールを週明けに送った。
「だったら、オケなんか辞めてしまえ。」と言われてしまうのは、覚悟の上だ。

数分後、師匠からの返信があった。
恐る恐る開いてみる。

「事情はわかった。頑張ってみようか。楽譜持ってきなさい。」

おや?
優しい…。

課題のバッハの楽譜とオケ譜を持って出かけた。

★★

「センセ、出張のお土産です。どうぞ。」
私はカステラの箱を手渡した。
ヘッダーの写真。バターを乗せて、レンチンすると更に美味しかった。缶にぎっしり詰まっているのも、私好み。
「いつもありがとう。」と言って、先生受け取る。

「時間があまり無いから、セクステットからやるよ。」
先生は、私があらかじめメールで送った楽譜を拡大コピーして用意してくれていた。

「センセ…レッスンにオケの曲持ってきてごめんなさい。」

先生は今時期かなり忙しそうだ。一昨日も地元でリサイタルがあった。出張じゃなければ私も行きたかったのに。満員だったとSNSで知った。
そんな中で、私のために時間を割いてくれている。

「お前がすごく頑張ってるのは分かるよ。
今日はバッハはいいから。セクステットを何とかしよう。」

仕事にオケにと疲れがピークで弱っている今の私に、この優しさは堪える。
先生はいつ、どういうタイミングで何をすると私の心に響くか、よく知っている。計算ずくで、ズルい。
私は思わず涙ぐんでしまう。

★★

泣いていても上手くはならないので、鼻をかんで気持ちを切り替える。

まず、2楽章G、チェロ1stソロから。

私が弾くのを先生に聴いてもらう。

最後まで弾いたところで先生、
「コレのどこがダメだって?」
首を傾げる。

「演歌っぽくて泥臭い弾き方がダメだって。」
私が答える。

「何だって?だってこのソロ、ほぼ演歌だろう。」
「だから、それが泥臭くってダサいって。『フランス舞曲風に弾きなさい』って。」

先生「はあ?!」と呆れる。
「『フランス舞曲』ってどういうこと?精々スラヴ舞曲だろう?」
「どういうことなのか、私が聞きたいです。
前打音なんか、こぶし回ってるじゃないですか。」

先生と首を傾げながら、「前打音を後ろに持ってきて、軽やかさを出す」ということをやってみることにした。

「コレでHさんがダメだと言うなら、『K先生がそう弾けって言ってました』と言いなさい。文句があるなら僕に言えって。」

指揮のH先生は先生の元同僚。お互いをよく知っている。

先生が今回オケ曲を引き受けてくれた理由が何となく分かった。
H先生が弟子の私にダメ出しをするということは、師匠にダメ出ししていることと同じなのだ。

ちょっと面白くなってきた。

★★

続いて,4楽章。

私が困っている部分は、この曲の中で一番難しいところ。2ポジションと8ポジションの間を飛び回るのだ。

運指をどうすれば弾きやすいか、先生と頭をひねった。

「コレはさ、お前じゃなくたって難しい。
この曲、2nd弾いたことあるけど、2ndだって難しいよ。1stなんてとてもとても。僕だって弾きたくないもの。自分では絶対に選ばない。」
と先生。

「H先生は『チェロがソロで活躍したいからこの曲を選んだんだろう』と思っていますが、そうではないです。私は決定事項を知らされただけです。私が選曲委員会メンバーだったら、断固反対しました。
いくら『ちょっとレベルの高い曲をやりたい』と思っても、私たちレベルじゃあ、目指すのは精々2,000mの大雪山です。3,700mの富士山なんて無理なんです。」
セクステットは富士山だ。

先生、うんうんとうなずく。
「この前も言ったけどさぁ、だいたい何で夜が首席なの?他に弾ける人いないの?」

ウチのオケにはチェロが13人いる。
実質弾けるのは、4人。
首席とパートリーダー、他オケと掛け持ちのHさん、僭越ながら、私。

ベテランRさんも弾ける人だが、正式に先生から習ったことがないため、指示を聞かず我が道を行ってしまう。
私の入団前はMさん不在時のトップだったが、「自己流の弾き方でみんなを置いてけぼりにするので困っていた。しかも練習をサボる。」とMさんが話していた。
今は、他オケと掛け持ちであまり練習に来られないHさんと一緒に、一番後ろに座ってもらっている。
後ろに座る人が弾けるのは、とても大事だ。
後ろで弾くのは、音が遅れて聞こえるせいで案外難しい。
一番後ろから応援をもらえるのは、トップにとってとても心強いものだ(学生時代の経験から)。

「という訳です。」と私。
「なるほどなぁ。」と先生。

「それにしても、2ヶ月間も不在だなんて、無責任な首席じゃないか。」
「いえ、首席はそんな人じゃないです。
色んな演奏会に引っ張りだこだから仕方がないんです。」

「誰なの、首席って。ホントに弾ける人なの?」
先生、疑ってかかってくる。

「センセ…びっくりしますよ。ウチの首席は、センセの兄弟弟子です。」

先日首席とパートリーダーと初めて一緒に飲んだ時に、その事実を知った。
首席の師匠は私の先生の師匠、T先生だ。

案の定、先生は飛び上がらんばかりに驚いた。
「何ッ?!マジか?!名前は?」
「Mさん。」
「ああ!知ってる!直接話したことはないけど。」

首席はT先生の弟子、次席(私)はT先生の弟子の弟子という、面白い(?)ことになっていたのだった。
どおりでMさんの指示が私に伝わりやすかった訳だ。

「T先生に言ってやろうか。首席がオケ練休みすぎて夜が困ってる、って。」

「やめてください!Mさんと私の関係が悪くなります。私はMさんと仲良くしたいのに!」

「夜、首席に負けるなよ。」

「センセ、この前も言ったけど、私を弓で指すの、やめてください。
コンクールじゃないんです。勝ち負けとか関係ないですから!」

弟子のこととなると熱くなってしまうのは、先生の悪いところだ。
余計なことをしないでいただきたい。

★★

先生のおかげで、だいぶマシな演奏ができるようになった。
あとは、富士山頂を目指してとことんさらうだけである。

今日教わったところ以外にも、難しい箇所が沢山ある。

困難を乗り越えて頂に立ったとき、一体どんな朝日が見られるのだろう?
その風景を楽しみに、頑張りたい。