24.4月オケ合宿:プロ奏者のエピソード。
私が入団して初めてのオケ合宿。
音楽活動の合宿なんて、学生の頃以来である。
会場は、市街中心から車で1時間弱の宿泊施設。
私は仕事の都合で合奏練習の途中から参加した。
合奏に集中している皆さんの邪魔にならぬよう、後ろでコソコソ準備をして、一番後ろの席に着いた。
30分ほど弾いて小休憩になる。
前方に座るチェロパートの皆さんが振り向いて、「よく来た、いらっしゃい」と手を振ってくださる。嬉しい。私、応えてぺこぺことお辞儀をする。
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合奏練習後、半分の人が帰宅。明日の午前中にまた集合となる。
泊まり組は、ホールで各々個人練習をしていた。
やがて、コンマスがそれぞれの譜面台に新しい楽譜を置きはじめた。
「合宿恒例、初見大会を始めます。」
初見大会とは、その場で配られた楽譜をみんなで演奏すること。
配られた楽譜は、私は見たことも聴いたこともない曲ばかり。
初見、苦手だ☆
指揮者H先生も、見るからに高価なクラリネットで参加。
格調高い音色に我々惚れ惚れする。
バスパートはチェロトップのMさんと私、コントラバスのOさん。とっても心強いメンバー。
私は上手なお二人の陰に隠れて楽しませてもらった。
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初見大会を2時間ほどやった後は、懇親会という名の飲み会。
楽団メンバーの中に複数医師、弁護士がおり、その方々の差し入れが豪華。高級赤ワインがズラリと並んだ。
「え?2011年の赤ワインなんて、開けていいんですか!?」
「いいよ〜。もらい物なんだけど、どうせ家にあっても飲まないから。」
とKさん。
おお〜!
お互い遠目で見ていたコンマスと、じっくり話をしてみる。
コンマス、悪い人ではないんだよ。言葉選びがストレートなだけとわかった。
コンマスに勧められるがままにワインを飲む。
続いて、指揮者H先生と。
H先生、近頃妙に私に絡んでくる。
なので、
「私の師匠から何を聞いたのか知りませんが、師弟関係以上のことはないんで。私たちの間のことは聞かないでくださいね。」
と言い置いた。
H先生「わかったよ。」と言って笑った。
「H先生のお仕事にまつわる、おもしろい話が聞きたいです。例えば…本番に楽器忘れちゃった、とか?そんなことないかもですけど。」
「あるよ。」とH先生アッサリと言う。
「あるんですか!」
H先生、笑う。
「正確には家に忘れたんじゃなくて、電車に置き忘れたんだけど。」
ソレ絶対おもしろい話でしょう!
ということで、以下、H先生のエピソード。
★
先生が今よりずっと若くて、フリー演奏者だった頃。
中学校で行われる芸術鑑賞会での演奏依頼があった。
先生はクラリネットの入った楽器ケースと衣装を持って、小田急線に乗り込んだ。
先生は途中で電車を乗り換えた。
網棚に荷物を置こうとしたら、手に持っていたのは衣装の入ったバッグだけだった。
「慌てて乗り換えた駅へ電話したんだよ。そしたらその駅にはなくてね。楽器はそのまま電車に乗ってたんだねー。」
電話を受けた駅員さんが終着駅へ連絡し、楽器が届いたら先生へ連絡をくれるよう手配してくれたそうだ。
「演奏会には楽器なしで乗り込んだよ。」
「で、どうしたんですか?かわりに歌ったんですか?」
「いいね、それ。でもそうはならなかった。
中学校だからね、吹奏楽部から借りたんだよ。」
なるほど。
「忘れたのが楽器だったから助かったんだよ。衣装だったら大変だった。」
プロなら、学校の楽器も上手く吹きこなすだろう。
「先生の楽器は?無事手元に戻ったんですか?」
「うん。音楽鑑賞会終了後、終点駅から預かっていると連絡あったから、帰りに取りに行ったよ。
お天気も気候も良くてね、江ノ島観光してから帰ったよ。あれはあれで楽しかったなぁー。結果オーライだよ。」
悦に浸りながら、ワイングラスを傾けるH先生。
楽器置き忘れるなんて危機的状況、普通なら気が気じゃないと思うんだけど、H先生はどこかのんびりしている。私の師匠も似たような雰囲気がある。
音楽家って、みんな危機感がどこか欠けているのか?
その後、H先生と利き酒ならぬ利き赤ワイン大会をし、先生を酔い潰してしまった。
私は久しぶりに朝方まで飲んでしまった…。
次の日の合奏は、いつも以上にぐでぐでだったのは言うまでもない。
帰り際、またしてもH先生に捕まる。
「夜さん、また一緒に飲もうよ。」
とのことだった。
今度は師匠と3人で、かな?
合宿のお土産として、H先生とコンマスに「私に勧める音楽を教えて。」とお願いした。
H先生『マーラー 交響曲第5番』
「聴くのは素敵なんだけど、演奏するのは長くて嫌。」とのこと。
コンマス『ベートーヴェン 弦楽四重奏15番』『フォーレ レクイエム』
「15番は弦楽合奏版もあるよ。いつかやりたいね。」とのこと。
毎日1曲ずつ聴こうと思う。
普段師匠としかできないクラシック三昧なお話ができて、楽しい合宿だった。