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9月チェロレッスン②:アマチュアオーケストラの資金繰り

先週のこと(日常雑記:恋と、愛と、友情と。②)があったから、なんとなく先生と会うのが気まずかった。

気まずさを払拭するべく、私はいつもの調子で明るく「こんにちは〜。」と言ってレッスン室に入った。

先生、練習の手を止めて「ああ。」と言う。

コレは…先生のほうが照れている。
ますます気まずいではないか。

こういうときはどうすれば…?
気付かないフリが一番いいかな??

私はいつもの調子を装って、レッスンの準備をしながら
「ロビーコンサート、無事終わりました。たくさんの人が聴きに来てくれたんですよ。」
と話し出した。

「それは良かったね。」
先生、楽譜の詰まったバッグをゴソゴソし出す。
顔を合わせてくれないし、話が続かない…ダメだ、これは。
この人、昔っからこんなに照れ屋だっただろうか??記憶にない。

私は話をすることを諦めて、黙々と準備を進めた。
「センセ、準備できました。」

「じゃあ、ボウイングから。」
先生、セリフがなんだか不自然…それでも、96のテンポで膝を叩きだす。
私、それに合わせて、解放弦(何も押さえない)のCを弾く。

Aの解放弦を弾き終えると
「C-Durスケール。」の指示。
その後「G-Dur。」の指示。
私、黙々とスケールを弾く。
弾いているうちに、肩の動きが良くなってくる。

「うん、OK。」
と先生。
続いて楽譜を取り出すと、ピアノの譜面台にそれを広げて、ピアノの蓋を開けた。
先生の表情もだいぶほぐれてきた。

「今日は僕のピアノ伴奏に合わせて弾くよ。」

今日はピアノを弾くの?
「調律が終わったから、ピアノが使えるようになったの。」
ああ、先々週の伴奏が先生のチェロだったのは、そういう理由だったのか。

「じゃあ、アダージョ、最初から通すよ。」
私がうなずくと、ピアノの伴奏が始まった。
私、2拍置いて、静かにHを弾く。

一通り弾き終えると、「うーん。」と先生が頭を掻いた。
「音程は置いといて(置いとくんだ?相当悪いんだな…)、夜はテンポを何に合わせて練習してる?まさか、自己流テンポじゃあないよね。」

ギクッ。

「メトロノームを69に合わせて鳴らしてますけど…。」

先生、また「うーん。」と唸る。

「メトロノーム、悪くはないんだけどね。この曲の拍の入りって独特だから、伴奏に合わせて欲しいんだよ。
イッサーリスのCD貸したでしょう。あのバックオケに合わせて練習して。そして、伴奏を頭に叩き込むこと。」

…わかりました。

「それから、ボウイングを変更する。53〜54小節のトリルがだいぶ長いから、弓を返すことにする。6連符をアップで入って、トリルは途中で弓を返す、32分音符をダウンで入る。」

はいはい、メモメモ。

「63小節の運指に無理がある。その前の62小節は何ポジションで取ってる?」

「えっと、1ポジションです。」

「それで、63小節から3ポジションに跳ぶの?
それだと取りにくいから、62のCから4ポジションで取りなさい。」

はい〜。

「じゃあ、poco piu からもう一度。」

と言われても、すぐに反応できないんだな〜。
やっぱりつまずく。

「まぁ、練習すればできるだろ。」
とお許しをいただいた。
練習してきます…。

           ★

「ロビーコンサート、ピアノとクラリネットとチェロのトリオって。編曲はどうしたの?」

レッスンを終えて片付け中、先生が聞いてきた。

「ピアノを担当した同僚が全部やってくれました。私はもちろん、二人ともジュニアオケと大学オケ出身です。」

先生「ああー、やっぱり。」と言う。

「医学部のある大学のオケって、強いんだよなぁ。弦パートなんか医学部多いだろ?」
「ですね。」
「そして、卒団しても演奏活動続ける人が多いんだよ。僕の知ってるそこそこ活躍しているアマチュアチェリストなんか、医者ばっかりだもの。」

センセ、呆れた感じで私を見ないでください。
私は活躍なんかしていませんよ。

先生が嘆く(?)理由は、先生がちょこっと面倒を見ている文学系大学のオーケストラが人数不足&資金難のため、存続の危機にあるからだ。

私は先月、出身大学オケのチェロパートに移籍したことで(今までヴィオラ籍だった)、チェロパートのグループLINEに入ることができた。
最初に届いたLINEが“コンサート開催のカンパのお願い”で笑ってしまった。

学生団体は常に資金難だ。かく云う私も、かなりカンパに助けてもらった。
楽団が永く続けば、それだけOBがいるわけで、支援金も集まりやすい(OBの混じる打ち上げで募金箱を持って回れば、酔っ払いOBがたくさん入れてくれる。私も恩返ししてきた)。

卒業生の中には地元新聞記者もおり、宣伝もよくしてくれたりする。
先月の演奏会も、地元紙にデカデカと宣伝を入れてくれていた。ありがたいことこの上ない。

「センセが嘆いたところで、どうしようもないですよ。
そこの学生とOBで存続するのか、いっそ休団?廃団?するのか考えてもらうしかないでしょう。」
「…そうだよねぇ。」

先生は一度面倒を見てしまうと、そこの楽団がかわいく思えちゃうらしい。分からなくもないけど。

「じゃあ、センセ、また来週よろしくお願いします。」
「うん。」

私はレッスン室を後にした。

自分の出身大学のオーケストラは全く心配がないけれど、実は今所属しているオケが資金難なんだよなぁ。
私は広報係なので、楽団の広告費を何とか抑えられないか、考え中である。






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