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3月チェロレッスン2回目:オケやっちゃ、ダメなの?

先生に直接会うのは二週間ぶり。
先週モツレクの本番前に電話でお説教された。
それ以来直接話していない。
なので、レッスンへ向かう足取りが重い…。

レッスン室へ入るのを私がためらっていると、
「ウロウロしてないで、入ってきなさい。」
と先生。
仕方なく「こんにちは…。」と言って入る。

「モツレク、お疲れ。」
と先生。
「大盛況だったみたいで、良かったな。」
私は鞄からパンフレットを取り出した。
「パンフ、800しか用意しなかったので、団員に配る予定だった分を来場者へ回しました。
コレはセンセの分です。私はデータ持ってるので、センセにあげます。」
「いいの?ありがとう。」

「それで…センセ、まだ怒ってます?」
恐る恐る私は聞いた。
先日電話で、オケにかまけて課題をまともにやっていないことを怒られた。

先生、机にパンフ置いて、私に向き直った。
「怒ってる訳じゃないけどね。僕がハッキリ言ってやらないと、お前は好奇心のままに突っ走るから。」

ああ、先生は私がアンサンブル団体にスカウトされたことについて言っているのか。

「あそこは入っちゃダメ。」
「何でですか?」
「お前はオケマンだから。」
「オケやってたら、アンサンブルやっちゃダメなんですか?」
「...そうじゃなくて。」

先生しばし考えて、私に説明した。
「お前の場合、オケが居心地良く感じる。そうだろ?」
「はい...変ですか?」
「普通はね、オケはだいぶ敷居が高いの。
楽器は違えど(当時、ヴィオラだった)、お前はオケから音楽の世界に入ったから、それが分かってない。」
「敷居、高いんですか?」
「ほら、分かってない。」
先生、鼻で笑う。
私、ムッとする。

「オケではオケ用語がたくさんあって、何も知らない人が入ったらよくわからないだろう。
オケの曲は長い。
なのに、演奏会を終える前に次の演奏会の曲を渡されて、常に何十曲も練習しなきゃならない。楽譜通りに弾けるのは当たり前で、どんな難曲だろうと弾けないとは言えない。
指揮者の指示にすぐに応えられる力量は必須。
そうだろう?」
「…そうですね。」

「それはプロでもアマでも同じ。
だから、敷居が高いの。
オケの歴史は教会や宮廷音楽から発展したものだから、格式が重んじられるし、演奏も格上が求められる。演者は正装なのはそこから。お客さんにまで正装は求めないけれど、王侯貴族の娯楽という歴史に倣って、ある程度ドレスアップして聴いてもらう方がお客さんも気分的に楽しめるんじゃないかと僕は思う。」
「なるほど。」

「僕が教える学生さんからは時々『オケやった方がいいですか?』と聞かれるけれども、僕は音楽家を目指す学生にオケを勧めない。なぜなら、常にオケ曲の練習が求められるから。
課題が疎かになる。お前みたいに。」

「はい、そーですねッ。」結局お説教かい。

「じゃあ、先生は私にもオケはやめなさいって言いたいんですか。」
「さっきも言ったけど、夜は僕と同じでそもそもオケマンだからいいよ。オケについていける力量もあるし。」

お!珍しく褒めた?

「僕が教えているからね。」
…結局自分が偉いんかッ。
言い方が呪術廻戦の五条悟みたいだ…(呆)

「で。近頃は大手音楽教室なんか、子供だけでなく、大人の音楽教室を開いているだろう?
子育てが一段落した人とか、長く会社に勤めてある程度懐や時間に余裕ができた人とか。そういう人が、弦楽器やってみたいなということでやってくる。
大人が基礎から習うと子供より時間がかかる。基礎練習にじっくり取り組んでもらいたいけれど、中には、単独演奏じゃなく合奏をやってみたいという人がいる。
でも、オケは敷居が高い。
そこでできたのが、お前を勧誘したアンサンブル団体なの。」

「ふーん。」

「だから、あそこは弾ける人はそういない。
お前を勧誘した意図は、オケでやっていけるくらい力量のあるお前に、アンサンブルを引っ張っていく役割を担ってほしいんだ。
そんなところに首を突っ込んだら、お前、益々やることが増えて、自分の首を絞めることになるよ。
だから、僕の課題をちゃんとやる気があるなら、断りなさい。」

...なるほど。

「…分かりました。断ります。」

★★★★

「まぁ、僕も誤算だったよ。」
「何がです?」
「オケやりたいって言ったお前に、今のところの入団を勧めたこと。」

はあ。

「ベテラン多いから、夜は末席で気軽に弾かせてもらえばいいって思ってたんだ。
ところが、そうじゃなかった。」

先生、パンフレットに載っているチェロ奏者名簿を指差した。

「モツレクにはチェロ13人も乗ってるのに、何でお前は2プルトになったの。新聞見たよ。」

本番数日後、地元紙にコンサートの写真がカラーで掲載された。舞台中央付近のアップ写真だった。

「前列ど真ん中、あんな客席から見て目立つ場所に夜が座るなんてありえない。しかも、240人が乗るデカいステージに!前列に居る役割、お前ちゃんと分かってるの!?」

「スミマセン…。」
思わず謝ってしまった(~_~;)。
自ら希望して座った訳じゃないのに…理不尽だ。

「でも、分かってますよ。責任重大であることぐらい。コレでもヴィオラ時代はトップに居たことがありますから。
課題が疎かになるほど、練習して本番に臨みました。
会場は撮影、録音、録画禁止でしたけれど、出演者特典で全部録画しました。
家帰って観ましたが、それなりに弾けていたと思います。
自分がオケで弾いているところ、初めて見たんですけれど。センセ、気を悪くしないでくださいね。自分が弾いている姿、容姿は全く違うんだけど、センセが弾いているように見えてびっくりしました。」

工房のKさん夫妻からは、よく「先生と演奏している姿が一緒」と言われるが、不本意ながら本当だった。

先生が爆笑した。
「そうか〜。そうなるよなー。僕が長年教えてるんだからね。」

★★★★

「さて。課題はどうなった?」
バッハ、無伴奏5番。
この曲にこだわりのある先生は、いつも以上にOKをくれない。

「あんな夜中にお説教されれば、いくら何でもやりますよ。
オケの弦六が難しすぎてやる気がなかったのもありますけど。バッハのバイコン1番が簡単に思えます。」

「バイコン1番?アレだって簡単じゃないよ。ホントに初見で弾けたの?」
「弾きましたよ。」
「夜にそんな実力あったか?」

何でいっつも先生は私を見下すのだろう?

「『僕の弟子だからできて当然だ』くらい言ったらいいじゃないですか。
じゃあ、5番の序奏弾きますよ。」

弾き終えると、先生「うーん、」と難しい顔をした。
「まだ、ダメですか?」
嘘じゃなく、ちゃんとやってきたのにな。

「いや…。」と先生。
体を乗り出してきた。
「お前、一体何なの?いいんだけど…いや、むしろすごくいい。
ちゃんとやればできるんじゃないか。驚いた。」

おおー!!やった!

「やっぱり、練習時間の問題か。オケ、やめるか?」
「イヤです。」
「フレーズ感、2か所だけ直して。後はそれでいい。」

ということで、中間部に着手する。
最初なので、先生と一緒に弾いた。
曲が進むと、私は「?」がいっぱいになった。

「センセ、ちょっと!」
「なに?」
「以前教わったのとボウイングと運指が違うのが所々あるんですけど。」
「え?そう?…あ。変更したの、夜に言ってなかったっけ?」
「聞いてないです。」
「じゃあ、僕の楽譜写メして。」

先生の楽譜を見ると、結構違う。
「センセ、ぜんぜん違ってますよ。」
私は不満を込めて言った。
「悪い悪い。」
先生苦笑い。
まったくもう、やり直しではないか。
「再来週までにやってきてね。」

弦六、第4楽章が終わっていない。
バッハ5番と同時進行はなかなかキツイなぁ…どっちもやりたいのは自分だから仕方がない。
頑張るのみである。
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