24.秋 オケ懇親会*コンマスは人気者。
私が所属している楽団の懇親会があった。
いつもは夜の飲み会になるところ、今回はお昼のBBQ。
参加者は指揮者H先生を交えて9名。こじんまりとしている。
当日は生憎の雨。日頃の行いが悪い?
BBQ会場は大型テントが設置されているので、雨天決行。
私が会場に着くと、すでにVc首席Sさんが居た。
「私が家を出る前にね、一応マエストロに『今日はBBQですよ』って電話したの。そうしたらマエストロ、凄く不機嫌でねぇ。」
Sさん、笑いながらそんな話をする。
「きっと寝起きです。昨夜も本番だったはずなので。」
H先生、本番が続いているはずだ(師匠が教えてくれた)。今夜も本番が入っているはずである。
それでも懇親会に参加してくださるのは、私たちと居るのが楽しいのか、又は単に飲み会好きなのか。
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間も無く全員が到着し、いつの間にかH先生も混じっていた。
それぞれドリンクを注文。私は昼間からお酒にした。たまには良いではないか。
乾杯後、早速お肉を焼く。
料理好きのVlaの精鋭Sくんが甲斐甲斐しく調理してくれるのは分かるが、何故かマエストロ自ら調理…もしかして、奥様に躾けられているのか?
「そういえば今日の会費、誰にお支払いすればいいんですか?」
私の疑問にVcリーダーMさんが答えた。
「企画したのはコンマスだから、コンマスに払ってね。彼、一括して前払いしてるから。」
「あれ?今日はコンマス参加してないのですか?」
「コンマスは今仕事でヘルシンキ。」
フィンランドかよ!
「うわー、何だかなー。」
仕事とはいえ、うらやましい。
「じゃあ、今日はもうコンマスの奢りってことで!」
私が言うのに、H先生も「そうしよう!」と賛同。
「ヘルシンキ、今何時ですか?」
「…朝の6時頃?」
「動画送って起こしましょう。」
みんなで集まって「ごちそうさまです!!」と手を振る動画を録った。
それをVnMちゃんが送った。
「あ!コンマスから返信…なんか嫌味だ!」
空一面見事なオーロラの写真が送られてきた。
「お土産頼もう!みんな何にする?」
リーダーMさんがスマホを取り出す。
マエストロが「マリメッコ。」と言う。
Mちゃん「イッタラのカップ。」
Mさん「私、ニョロニョロ。夜さんと言ったらスナフキン(私のあだ名)だよね。送信!」
おう…。
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「夜さんは何でウチの楽団に来たの?」
楽団代表のSさんに聞かれた。
「えっと、私元々大学でオケやってたんです。卒業後は無所属でした。
チェロは個人レッスンを続けてたんですけれど、やっぱりオケやりたくて。師匠に教えてもらったのがここでした。」
「大学でもチェロだったの?」
「いえ。ヴィオラでした。」
Sさん、ガシッと両手で私の手を握った。
「なんと、こんな身近にヴィオラの逸材が!!」
Mさんが「夜さん、ソレ言ったらダメだよ!永遠の秘密だったのにー!」と割って入る。
私と話をする直前、SさんMさんは「1st Vnと Vlaの募集をかけようか」と話していたのだった。かなり不足しているのだ。
「でも、ヴィオラはもう手放しちゃいましたし。」と私、言い訳をする。
「全然問題ないよ!U先生きっと2挺持ってるから!」
Mさんが会話に入ってくる。
「ダメです!夜さんはチェロのものです。それに、夜さんはヴィオラ弾けない身体になっちゃったんです。」
チェロ弾けてヴィオラ弾けない身体って、どんな状態?(笑)
★
ここに居ないのに、何かと話題のコンマス。
きっと何だかんだ言って、人気者なのだと思う。
リーダーMさんがこんな話をし出した。
「夜さんが入団する少し前のことなんだけど。
一時期VnにTさんという女性がいたの。」
ほうほう。
「Tさん、コンマスに惚れちゃってね。」
コンマスに惚れる?!変わった方がいたもんだ…はっきり言ってコンマスは変な人である。
物腰柔らかいし、一見優しそうだから、モテることもあるのかもなぁ。
「Tさん、コンマスを食事に誘ったんだって。」
積極的な女性なんだな。
「コンマス、グルメでしょう?だから『美味しい店紹介しますよ。』って返事があったって。
Tさん、もう大喜びで。」
コンマスはTさんの恋心に気づいているのか?怪しい。
「約束したもののコンマスからTさんに待ち合わせ場所の連絡がないから、Tさんから『待ち合わせはどこでしょう?』って連絡したんだって。そうしたら…。」
そうしたら?
「『銀座三越入口で待ってます』ってさ!」
まさかの東京!
ここから東京までは新幹線で2時間かかる。
もう笑いが止まらない。
「何なのそれ!実は一緒に食事したくないからの嫌がらせなの?」
Sさんがゲラゲラ笑いながら突っ込む。
「いや、絶対天然ですよ。コンマスは純粋に美味しいものが食べたいんです。」
お腹を抱えて私は言った。
「しかも、一緒に旅行しましょうとかじゃないんだ?現地集合なんだ?」
「そして、食事の後は現地解散。」
「コンマスならやりかねない。」
笑いすぎてお腹が痛い。
何となくわかっていたが、コンマスは私と同じ星の住民だ。行動が似ている。
ダンナも友達も、私の言っていることの半分は理解できないという。
「研究に関しては無から有を生み出す天才だが、普段は常識の通じない馬鹿だ。」と、学生時代の研究室U教授に評された。私に手を焼いていたらしい。
今のところ、私がスムーズに会話できるのは、次男と師匠だけである(ダンナ曰く、私と次男の会話は、宇宙人の交信に聞こえるそう)。
「そういえば、私、コンマスに食事に誘われてるんでした。ワインが美味しいお店とか。」
私がそう言うと、皆さんどよめいた。
「そのお店、きっと県外だよ。ちゃんと場所確認しておいたほうがいいよ。」
とアドバイスされる。
何なら、海外でもいいなぁ。私も海外旅行がしたい。
★
雨が強くなり、気温が急降下した。
すっかり寒くなってしまった私たちは、建物の中で温かいコーヒーを飲んで解散。
翌日は全体練習会。しかも、H先生の今季初の指揮練だった。
1回目だからだろうか。H先生の指導がいつになく厳しかった。
「僕は何のために居ると思ってるんですか。それぞれ勝手に拍を取るんじゃなくて、ちゃんと指揮を見てくださいよ。」
はい、悪いのは私たちです…。
H先生、コレに懲りずに、また私たちの飲み会に来てください。