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機械戦線

崩れたブロック塀に体を預けて呼吸を整える。
羽織っている不織布は汗を吸わず内側の熱を逃してくれない。だが、そうでないとあいつらに捕捉されてしまう。
薄黄ばんだ灰色に光る夜空には蜘蛛の糸のように無数の黒い電線が引かれており、電柱敷設車の獣の唸り声のようなエンジン音に呼応して時折ピクリ、ピクリと跳ねていた。
その様子は何も知らなければ神秘的で、恐らく以前のマサトであれば思わずカメラを向けていただろう。

ィーーーーーーーーィイン。

羽音にも似た音に、意識が引き戻される。
首元に当たる風。暑さで無意識に布を緩めていたらしい。
完全に己のミスだ。捕捉された。
小さな羽音のようなモーター音は徐々に他の音を飲み込み、明確な機械の駆動音に変わっていく。
布を羽織ったまま跳ねるように駆け出した。

走れ。走れ。走れ。
金属の擦れる音が徐々に遠くから聞こえてくる。電柱敷設車だ。
その巨体が通れないような瓦礫の隙間を必死にくぐり抜けて走る。
マンションだっただろうコンクリートの廃墟が前方の崩れたアスファルトの先に見えた。
鉄筋コンクリートは電波を通さなかっただろうか、一瞬逡巡したのち、マサトはその廃墟に向けて方向を変えた。
廃墟まで、あと150メートル。電柱敷設車まではまだかなり距離がある、廃墟で電波を遮蔽すればこの場はなんとか逃げられるだろう。
崩れたアスファルトには斜めに刺さった電柱があった。マサトはその下を潜り抜けようとした。

「…クソッ!」

電柱の根元にあるとわかっていて、目を背けようとしたのに『それ』はマサトの視界に入ってしまった。
電柱に頭を潰された、かつて人間だった肉塊。
口の中にこみ上げる酸っぱいものを必死にこらえながら、マサトは転がるように廃墟に飛び込んだ。
生き延びなければいけない。張り巡らされた電線と赤外線センサーをかわして、襲いくる機械たちに電柱を打ち込まれる前に。

2304年。人類は滅亡の危機にあった。

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