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ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#105

佐佐木 政治

純白に氷結した湖の上を 白鳥の編隊がゆっくりと飛翔する
翼の先で時間の波と語らいながら 沈黙の光にぬれながら
最も新しい時間の層を切り崩しながら 白い峰々の上の 青い区㓰から降りてくる

おゝ あれは何という神秘な光景 
なんという晴れがましさの 書き割りだろう
白い太陽と 青い空と 白い峰々の稜線 傾く湖の繊細なふちどり
そして蒼穹は 飛翔の傷跡すら残さず 縫い合わされてゆくのだ

彼岸から此岸へ 沈黙の羽音が届くのはまだだ
目撃する現場の情報が届くのはまだだ
ささやきあう彼等の現場は まだ異なる時間の谷間に閉ざされている

おゝ 凍れる湖の上の 真新しい時間を引裂いてゆく白鳥たち
一つの舞台に あなたがゆっくりと言葉の糸を垂らす
あなたの沈黙を割って ささやかな雪の飛沫が上がる 
旅の終わりを 息をひそめて みつめているのだ


父・佐佐木政治
昭和6年長野県飯田市に生まれる。飯田高松高校卒業後、大学で仏文学を学ぶことを断念、木曽にて印刷業を営む。生涯、詩を詠み、本を作る。亡くなる二年前に脳梗塞で麻痺や認識障害を患うものの、動かない手を駆使して最後の詩集「神へ捧げるソネット」を手作りした。


>>>>>>>いつもフォトギャラリーから素敵な写真を使用させていただいています。感謝してます。ありがとうございます。<<<<<



亡父の詩集を改めて本にしてあげたいと思って色々やっています。楽しみながら、でも、私の活動が誰かの役に立つものでありたいと願って日々、奮闘しています。