見出し画像

「取材する、しないじゃないんだよ! 書くんだよ! わたしは文章を書くんだよ!」

自著「最強レスラー数珠繋ぎ」において、名だたるレスラーへ「強さとは何か」を問うたインタビューともに、自身の人生を語るパートを挿入し、賛否両論を招いたライターの尾崎ムギ子。その後何かよくわからないし知らないが、色々なことがあったらしく、メンタルが地に堕ちた。それは、雪崩式ブレーンバスターを喰らったかのような有様であった(一瞬でも高いところにいた人間が、下に落ちるのは辛いのだ)。書くことを恐れ取材におびえていた尾崎氏に、「あなたの人生を語るパートこそが面白い」と信じて疑わない編集者が、もう一度筆をとってもらうため、往復書簡をしかけた……!

<前回のプロレス往復書簡ンンン‼>

黒田さんへ

 余裕ぶっこいた手紙を送ってしまい、大変失礼いたしました。そして、ごめんなさい。黒田さんがこの往復書簡を通して「わたしたちもプロレスしようぜ!」的な空気をこれでもかと出してくるのが、可愛くってたまりません。

 手紙の返事を書かずにいたら、催促のLINEをくれましたね。すみません、すぐ書きますと送ったら、

「返信は『返すぞうるせえこのヤロー!』の一言で大丈夫です!」

 一体、いつの時代のプロレスですか! もちろんわたしは華麗にスルーです。

 狙ってプロレスをするとか、そういうことじゃないんです。わたしの中でプロレスは、歌人の中澤系さん風に言うと、”OK, it’s the stylish century!”なんです。

『最強レスラー数珠つなぎ』インタビューの中で、佐藤光留選手は「世間とプロレスする」という表紙の『週刊プロレス』について、こうおっしゃいました。「世間とプロレスはできないです。レスリングしないですから」――。OK, it’s the stylish century!(わたしも黒田さんとプロレスするつもりはありません)

 さて、「髪を明るく染めただけ、化粧をばっちりするようになっただけ」……最高じゃないですか! 見た目を変えるというのは、とても大切なことですよ。プロレスラーだって、変化したいとき真っ先に見た目を変えるじゃないですか。わたしも海外遠征から帰ってきたノアの清宮海斗選手の変貌っぷりを見て、髪を明るくしたことがあります(ちなみに清宮選手が通っている美容院に行きました)。強くなった気がしましたし、仕事にも気合が入りました。黒田さん、いまの髪色もお化粧もとっても似合っていますよ! 

 元カレとの相撲話はお気の毒といいますか、何度聞いても爆笑してしまうわけですが、きっと時間が解決してくれます。思いっきり愚痴ってネタにして、忘れましょう。恋愛偏差値・中二のわたしからアドバイスは以上です。

 なんと、スターダムを観に行くとのこと! 素晴らしい! 女子プロレスは、いまの黒田さんに刺さると思います。「たぶん、あそこには、きっと、私がいる気がするのです」――わたしも先日、ガンバレ☆プロレス後楽園ホール大会で同じことを思いました。あ、わたしがいるって。

 春日萌花選手が、朱崇花選手の持つインディーJrのベルトに挑戦表明したんです。それに対して、朱崇花選手は冷たく言い放ちました。「わたしの知ってる春日萌花がこのベルトに挑戦して、なにができるの? 大して実力もないあなたに、挑戦してなにができるんですか?」――。

 一昨年11月、わたしはとある取材で大きな失敗を犯しました。元々、取材恐怖症のようなところがありましたが、それ以来、徹底的に取材を避けるようになり、この1年間で行ったインタビューはたったの2回です。

 黒田さん、以前わたしに聞きましたよね。「なにを考えながらプロレスを観ていますか?」。なにも考えてないですよと答えましたが、本当はわたし、一昨年11月に取材で大きな失敗を犯したことをひたすら後悔しながらプロレスを観ています。いまでもあの日の凍りついた取材風景が、プロレスを観ていても、なにをしていても、強迫観念のように頭から離れません。
 
 なにができるの? 大して実力もないあなたに、挑戦してなにができるんですか?
 
 朱崇花選手の言葉が胸に突き刺さります。やめて……それ以上、言わないで……自分でもわかっているから……。
 
 しかし、春日選手はこう言い返しました。

「できる、できないじゃないんだよ! 勝てる、勝てないんじゃないんだよ! 勝つんだよ! いいか! できない、できない、できない、できないって、無理だって言われること全部ひっくり返して、覆して、歴史を新しく作るのがプロレスラーだろ! そしてそれが、人生の醍醐味だとわたしは思います!」

 ダムが決壊したように、涙が溢れてきました。プロレスを観てあんなに泣いたのは、いつ振りだろう。この瞬間、直感したんです。“尾崎ムギ子の第二章”が始まる――。取材する、しないじゃないんだよ! 書くんだよ! わたしは文章を書くんだよ!

 スターダムの大会、楽しんできてくださいね。なにか前向きな発見があるといいですね。女子プロレスには、わたしたちのリアルが詰まっている気がしています。

尾崎ムギ子

ムギ子さんへ

「一体、いつの時代のプロレスですか! もちろんわたしは華麗にスルーです」

 ふふふ。この言葉が出ている時点で、もう私の術中にはまっていると言っても過言ではないでしょう。いや、そう返すことで強者であることを私に見せつけているのですね。これは一本取られました。

 まさに、94年のイッテンヨン。グレート・ムタがアントニオ猪木(敬称略お許しください)に毒霧を浴びせた。いや、猪木さんが浴びにいったのか……。ムタの術中にはまっているとも言えるし、ムタの術中にはまってみせたとも言える。ただ、むちゃくちゃ猪木さん怒っていたそうです(詳しくは、「さよならムーンサルトプレス(福留崇広著、イースト・プレス刊)」参照のこと)

 というわけで、わたくしはスタンスを変えずに、仕掛けていきますので、そうやってスルーしていたらいいですよ! “尾崎ムギ子の第二章”が始まったなら、スルーされようがかまいません! 書いてほしい、わたしはまさに、その一心で往復書簡を提案しました。編集は表に出ないことを美学とすることが多い。でも、書いてもらうためにはなにも厭わない。それもまた、編集かもしれません。そしてまんまと始まりました。始まったらこっちのもんです。

 ムギ子さんが引用した春日選手の言葉を読んで、はっとしました。この先どうなるか、ダメダメの未来を予測して何もしないのって、クソほどダサいのはもちろん、つまんないですもんね! かっこいいなあ、人生の醍醐味を見せつけてくれる、レスラー。彼らは本当に、どういう人たちなんだろうといつも不思議に思います。
 
 そして、恋愛偏差値中2のアドバイス、ありがとうございました! もしまた、結婚するかしないかを相撲で決める日が来たら、そのときは反則技を使ってでも勝ってやろうと思います。目つき、金的、あらゆる技を駆使して、勝ちたいと思います。結婚したいというより、勝ちたいですね。負けたくない。負けるってめっちゃみじめです、倒されて床に押し付けられて……。あんな想い二度としたくないので、以後、勝ちます。

 さて、予告通り、スターダムを見てきました。結論からいうと、私はいなかったです。私がいるかも、なんて、何を恐れ多いことを言っていたんでしょう。驚くほどに強くてかっこよくて、憧れを体現する女たちでした! じつは私はKPOPのファンでもあるのですが、KPOPの女性アイドルって、同性のファンのほうが多いんです。女性があこがれる女性、「ガールクラッシュ」と呼ばれています。スターダムの選手たちは、みな、ガールクラッシュでした。ITZY、BLACKPINKといった、ガールクラッシュグループを見ているときと同じような憧れの衝動が沸き起こって、コロナでなければ、大声出して叫びだしそうでした。

 白川未奈選手が入場してきた光景が、一番心に残っています。グラビアアイドルでもある白川選手は、おっぱいをぶるんぶるんさせて入ってきたので、正直ギョッとしました。

 実は、私の心の中には、PTAがいます。

「あらあら!」「まあ! みだら!」と同性の性的な部分に対して非難する気持ちがちょっとあって、それについては今後の課題&最近解消されてきたんですが、白川選手が入ってきたとき、ひっさびさに心のPTAがざわつきました。とはいえ、魅力のある人って、理屈抜きに見入ってしまう。評論家めいたことを言いたくないですが、この人すごくプロレス好きなんだと伝わってくる。飛ばされ方、声の出し方、試合運び。気付けば、何枚も写真をとっていました。残念ながら負けてしまいましたが、とにかくかっこよかった。次も絶対見たい、この人みたいになりたい……! 後で調べたら、経歴も思い切りがあってかっこよかった! これはもう私、ファンだわあと思いました。

 それで初めて女子プロを見て、やっぱり、改めて思ったんですが、わたしは強くなりたいです。ムギ子さんも、強くなりたいんですよね?

黒田

黒田さんへ

『5時から7時までのクレオ』を観たことはありますか? 60年代のフランス映画で、午後5時から7時までのクレオをリアルタイムで描写した作品です。

 若いポップシンガーのクレオは、自分が癌ではないかと疑い、病院で精密検査を受けます。その結果が判明する7時までの間、パリの街中を彷徨うのですが、仲間と陽気にシャンソンを歌ったかと思えば、鏡が割れて「不吉だわ! やっぱり癌なんだわ!」と絶望したり。感情がまるでジェットコースターのように揺れ動きます。 

 なにが言いたいかというと、いまのわたしはクレオです。プロレスの企画が通るかどうか不安でいっぱいの中、ガンプロを観戦して急にポジティブになったかと思えば、やっぱり企画が通りそうもなく、すっかり悲嘆に暮れています。やっぱりもう無理なのかなあ、わたしとプロレスは。とっとと結婚して、“女の幸せ”とやらを掴んだほうがいいのかなあ。

 ということで、マッチングアプリを再開しました。

 見事プロレスファンの男性とマッチングし、やり取りがスタート。しかし「どの団体が好きですか?」と聞くと、案の定「新日本プロレス」との答え……。

 違うんです、新日本が嫌いなわけじゃないんです。最近あまり観ていないだけで、むしろわたしは根っからの新日本ファンなんです。ただ、「マッチングアプリにいるプロレスファンで新日本しか観ていない内藤哲也ファン」とは過去、度々バトルを繰り広げており、今回も嫌な予感がしました。

わたし「明日、GLEATを観に行きます♪」
男性「GLEAT? 初めて聞きました」
わたし「田村潔司さんの新団体です。UWF大好きなんです♪」
男性「ああ、僕、UWF苦手なんですよね。プロレスだか格闘技だか、どっちかにしてほしくないですか?(笑)」

 してほしくねええええええええええええええええ!!!!!!! してほしくねえから、明日、GLEATのプレ旗揚げ戦に行くんじゃ、ボケええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!! (笑)で誤魔化すなや、ボケええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!

 純粋なプロレスでもない、純粋な格闘技でもない。しかし歴史上、他のどの団体よりも、純粋な“闘い”、そして“強さ”を追い求めた団体なんですよ、UWFは。

 GLEATプレ旗揚げ戦、素晴らしかったです。なにが素晴らしかったって、大会前に田村潔司さんの公開スパーリングを観られたことが、涙が出るくらい素晴らしかった! 佐藤大輔さんの煽りVが脳内でぐるぐるリピート再生されました。

 旗揚げ戦は2021年7月とのこと。それまでに生え抜きの選手はもっと強くなり、もっと熱い闘いを見せてくれることでしょう。若い選手が頑張っている姿を見ると、涙が出そうになります。わたしも年を取りました。

 以前通っていた、中村大介さんの道場に再び通おうと思っています。中村先生の師匠は田村潔司さん。中村先生から、プロレスのこと、格闘技のこと、UWFのこと、たくさん学んできます。

「ムギ子さんも、強くなりたいんですよね?」

 ハイ、そうなんです。わたしも強くなりたいんです。

 スターダム、楽しめたみたいでよかった!「心のPTA」はわたしの中にもいます。おっぱいぶるんぶるんと聞いただけで、ママチャリに乗ったPTAが猛スピードで追いかけてきます。

 女性は心の中にPTAがいる人と、そうでない人、真っ二つに分かれるような気がしますよ。わたしの場合、性的なことに嫌悪感を抱く母に育てられたこと、中学高校と女子校に通ったことが大きく影響していると思います。男性は汚いもので、そういう男性に性的アピールをする女性もまた汚い……。でも男性とお付き合いすれば体の関係を持たなくてはいけなくて、そうなると自分を汚く感じてしまう……。そういう感覚が、38歳になったいまでも抜けません。

 女子レスラーの中にも、心のPTAを抱えている人がいるんじゃないかなあ?  だとしたら、セクシーなコスチュームを着てリングに上がるだけで、とてもつらい思いをしているかも。それでも闘い続ける理由って、なんでしょうね。

 以前、ブログで「女子の記事は女子が書くべき」と書いて、女子プロの記事を書いている男性記者をひどく立腹させてしまったことがあります。確かに失礼だったと反省していますが、いまでもそう思っている節があるんです。あるジャンルの魅力を伝えるのに、性別は関係ないかもしれない。でもことプロレスに関して言うと、性別ってすごくセンシティブに関わってくると思うんですよね。わたしは主に男子レスラーにインタビューをしていますが、やっぱり女だからわからない部分があるんです。それがすごくもどかしいんですよ。

 来週は久しぶりにFREEDOMSを観に行ってきます。正岡大介vs竹田誠志……想像しただけで体の全細胞がゾクゾクと動き出します。「ここにこんな細胞あったっけ!?」みたいな! 

 もっともっと、プロレスをこの体いっぱいに感じたいです。

尾崎ムギ子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?