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サイコロ塾レッスンレポート:分析!ハゲタカのえじき編

こんにちは!
10月からいよいよ下半期ということで、サイコロ塾のレッスンの進め方を少し変えて再スタートです。

「ゲームをプレイして学ぶ」から「ゲームを作って学ぶ」へ。2022年の3月に子どもたちのオリジナルゲームの完成を目指します。

今回はその1回目ということで、子どもたちに「ハゲタカのえじき」をプレイしてもらい、その後、分析するというレッスンを行いました。

「ハゲタカのえじき」自体が、これぞボードゲーム!という本当に素晴らしい競りゲームです。

これまでとレッスンの進め方に変更があるなかで子どもたちがどのように行動したか報告します。冒頭に少しだけ、「ボードゲームを作る」活動の意義について書いてみました。よければぜひ読んでみてください。

それではレッスンレポート開始です!


0、「ボードゲームを作る」活動について

サイコロ塾では、「ゲームをプレイして学ぶ」という活動と、「ゲームを作って学ぶ」という活動を組み合わせたカリキュラムを行っています。

これはひとえに、「創造的自己効力感」や「ルールに対する態度」を育成するためにそのようにしているのですが、このあたりの考え方を以前noteにまとめていますので、よかったらぜひご覧ください。

最近新しく考えていることとして、他の「創造的な活動」(例えば、絵画教室とか音楽系の習い事とか)との違いがどこにあるかについて少し書いてみます。

「ゲームを作る」ということは、他の創造的な活動と同様に日常の現象や構造をよく観察・分析し、理解した上で単純化、抽象化して表現することが必要になります。「ゲームを作る」活動では、そこに加えて、プレイヤーとゲームとのインタラクションについてもデザインする必要があります。

ゲームは、プレイヤーがゲームと相互作用することで初めて現象として成立します。その相互作用がどういったものになるのか、ということまで作り手は想いを馳せ、デザインする必要があるのです。もちろん、絵を描いたり、音楽を奏でたりする活動も、視聴する人へどんな感情体験を起こさせるか、のようなことを考えない訳ではないと思います。しかし、ゲームではそもそも受け手であるプレイヤーが実は受け手であるだけではなくて、ゲームに働きかける創造的な主体にもなり得るので、どんな仕方でゲームと関わっていく可能性があり、その結果としてゲームがどんなふうに反応を返すか、ということまで、デザイナーは考えなくてはならないのです。

このようにプレイヤーがどのように創造性を発揮してゲームとインタラクションするかを、デザイナーの視点(=メタな視点)から考え、「創造性」について明示的に学んでいくことができることこそ、他の創造的な活動と比べた際の「ゲームを作る」活動の利点ではないかと思います。

note用画像_ハゲタカのえじき1

子どもにとってみると、「ゲームをプレイ」する活動を通して、ルールの構造から沸き起こる感情を理解することでも十分に大きな学びにはなりますが、さらにそれを作る側に回ることによって、視点が「他者の内的プロセス」にまで及ぶというだけでも十二分に意味があるように思います。

1、ハゲタカのえじきをプレイ!

ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、レッスンの様子をここから報告していきますね。今回から「ゲームを作って学ぶ」フェーズに入ること、今後の目標(3月までにオリジナルゲームを完成させ、プレゼンテーションをすること)を説明したのち、子どもたちに早速「ハゲタカのえじき」をプレイしてもらいました。

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これまでと同じように、書き下したルールを読んでもらい、自分たちでルールにしたがってプレイを成立させていってもらいます。このあたりの流れは、ここ6ヶ月でずいぶん慣れてきたのかなと思います。「ルールに対する態度」の育成もサイコロ塾での1つの目標ですが、少しずつ構えの変化=ルールは自分たちで運用していくという態度が身についてきたのではないかと。

とはいえ、今回の活動の主眼はこの後のゲームの分析にあります。そのため、今回はあえて先月までに使ってきたゲームよりも比較的ルール量が少なく、解釈が難しくないゲームを取り上げています。

「ハゲタカのえじき」は、「一斉入札による公開競り」という一種の競りを利用して、得点カードを獲得していくゲームです。ルールのポイントはなんといっても「バッティング」と呼ばれる、他のプレイヤーと出したカードの数値が被ってしまった時の処理にあります。

「1」から「10」までの得点カードの獲得時は、基本的に1番大きな数字カードを出した人がそのカードを獲得しますが、最大値を出した複数のプレイヤーによる「バッティング」が起こった場合、次点の数字カードを出したプレイヤーがカードを獲得する、というルールがとても効いています。

競り落とす対象の価値が高い時に、単純に自分の強い(=高い数字の)カードを出せば良いというわけではなく、他のプレイヤーの懐事情(なんのカードを残しているか)や思惑(このカードを積極的に取りに来るか)などを読み合いながらカードを出す必要があるというわけです。

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さらに、それに加えて「-1」から「-5」までの「マイナス価値の得点カード」があることもポイントです。これらのカードを競り落とす場合、1番大きな数字カードではなく、逆に1番小さな数字カードを出した人がカードを受け取ってしまうことになります。

「プラス価値を積極的に取りに行く」プレイや、「マイナス価値をとにかく取らない」プレイなど、それぞれのプレイヤーの考え方によって、カードの出し方が変わるのがとても面白く、ボードゲームの対人だからこそ得られる濃密な体験を起こすエッセンスがぎゅっと詰まっています。

子どもたちは、競りの対象のカードが捲られるたびに「おー、これがきたか」「うわー」と声を上げて盛り上がっていました。また、カードを選んでいるときには「俺はここは強気でいく」ということを言って、他の子どもを牽制したり、残りのカードを計算しながら出すカードを選ぶなど、ゲームプレイの中で大いに思考をめぐらせていました。


2、ハゲタカのえじきを分析しよう!

さて、今回のレッスンの肝はここからです。子どもたちに、今プレイした「ハゲタカのえじき」のプレイを分析してもらいます。

分析には、昨年度の後半のレッスンでも用いた分析シートを用いました。

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今後、少し内容が変わるかもしれませんが、基本的にはこのシートに継続的に異なるゲームの記録を残していくことで、子どもたちのゲームに対する観察眼を育てていきます。

右側のダイヤグラムは、ゲームを量的に捉えるアプローチです。分析の視点として、「運が作用する程度」「盛り上がる=感情が動かされる程度」「リプレイ性」「めっちゃ考える=認知的な負荷」「ルールの分かりやすさ=ルールの学習のしやすさ」を準備しました。また、1つは自由枠として設定し、子どもたち独自の視点から分析をしてもらうこととしています。分析の視点は他にもあるかもしれませんが、ひとまずこの6つで進めていく予定です。

量的分析とはいえ、あくまでその程度を決めるのは主観によります(1はどれくらいで、5がどれくらいかというのは個人によって異なる)が、回数を重ねるうちにその基準が子ども自身の中で揃ってくると良いかなと思います。

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まったく初めてゲームの分析をする子どももいるので、評価の各視点について説明し実際にシートに書き込んでいってもらいました。もちろん、初めから詳細な分析をすることができるとは思っていないので、まずは、「ゲームとその体験について振り返って考えてみる」ということに取り組んでみるところからですね。

これまでは、ゲームをプレイした後に、口頭で「ゲームでうまくプレイするためにどうしたらいいか?」といったことや感想を尋ねて言葉にしてきましたが、「分析して書く」となると、また子どもたちにとって少し違った体験になったようでした。

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分析シートの後半は、「ゲームのルール」に関する気づきを振り返ってもらう部分を設定しています。この項目を考えてもらうことを通して、「プレイヤーとゲームとのインタラクション」を考えてもらうことをねらっています。どうして面白いんだろう?を特定のルールと結びつけることができれば、自分が作り手に回った時のヒントになるかもしれない、という発想です。

上のシートは今回子どもが書いてくれたものですが、「(得点カードに)マイナスがある」という仕掛けによって、「何点になるかわかんない」という結果が引き起こされることを、「面白い」という感情と結びつけて考えられていて素晴らしいなと思いました。こういう分析を進めていき、ボードゲームをプレイするときの視点が豊かになっていくといいなと思います。

今回を含めて6回、その目標はゲームの分析をすることで、「ルール」とそれによって引き起こされる、ゲームの展開やプレイヤーの感情を理解し、デザインのヒントを得ることです。まだまだ、始めたばかりで一言も書けなかったり、言葉にならないという子どもも多いですが、少しずつ進んでいければいいかなと思います。

次回予告

次回は「ニムト」をプレイして、分析を行います。ニムトがどんなゲームかご存知の方なら、今回と次回とを合わせてどんなことを子どもたちに学んでもらおうと思っているか、予想がつく人がいるかもしれませんね。

それでは、次回のレポートもぜひお楽しみに!

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