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新大久保で泊まったホテル

私は普段、北海道で働いている。今でこそ中国担当だが、以前は国内の仕事しかしていなかった。その場合、やはり東京への出張がそこそこある。今の状況だとさすがに行くことは無いが、去年まではだいたい1か月に1回くらいは出張に行っていた。

出張なので、当然、会社の経費でホテルに泊まるのだが、一時期、何故か『できるだけ安いホテルに泊まる』ことにハマっていた。非常に良い社員である。経費削減だ。決して、安いホテルに泊まるとあまりのクオリティの低さにネタになって面白いからではない。

そんな中で出会った一室の話を書こうと思う。

あれは6、7年くらい前の夏のことだった。その日私は、東京への出張のために会社のPCでホテルを探していた。ほとんどの場合、安いホテルは東京の東側で探すのだが、その時の出張は新宿界隈が主な訪問先だったこともあり、西側の安いホテルを探していた。

適当なホテル予約サイトで「安い順」でソートし、地域検索しつつ、カプセルホテルを除外していると、1部屋とても安いホテルが見つかった。確か、5,000円台で、普通のビジネスホテルとしては破格だった。写真を見る限り、ロビーはかなり綺麗だ。場所は新大久保。新宿にも割と近い。これはアリだな、と、宿自体の説明など見ることも無く、即決で予約した。

私はこの時、もっとよく部屋の説明を読むべきだったのである。

新千歳空港から羽田空港に向かい、モノレールで浜松町へ。私は浜松町へモノレールでいくのが何となく好きだ。理由は文化放送の建物が見られるからである。アニラジ好きの性と言えるだろう。

その後、山手線で新宿へ行き、数社への訪問を終えたところで時刻はだいたい夜の8時くらいになっていた。

新宿から新大久保へ移動する。駅から出ると、そこかしこにハングル文字。そうか、新大久保は東京のコリアンタウンだったな、などとそこで気付いた。とはいえ、6、7年前の当時はなんとなく韓流ブームも既に落ち着いていた頃で、割とバタバタと韓国系の店が潰れていた頃だったはずだ。正直、私は全く興味が無かったので、特に何も思わず本日の宿へと向かった。

ロビーは普通。むしろ綺麗な方だった。安宿出張をしていると、ロビーからしてヤバイ雰囲気のホテルが沢山あるが、このホテルは全然ヤバさを感じない。普通のビジネスホテルである。これは当たりだぞ!と、安心してキーを受け取り、エレベーターに乗って指定された部屋へと向かう。

エレベーターを降り、自分の部屋に向かう途中に、違和感に気が付いた。

廊下の左右にある部屋の扉。そこに何やら写真が貼ってあるのである。可愛い女性達の写真や、カッコイイ男の写真である。

これは何だ。まさか泊まっている人の写真が貼ってあるわけではないだろう。だって写真の下には【KARA】とか【少女時代】とか【イ・ビョンホン】とか書いてるのだから。

私は、嫌な予感を持ちつつ、自分の部屋の前に到着。そこには甘いマスクの男性の写真が貼ってあった。その下には【チャン・グンソク】と書いてある。そう、私が本日宿泊するのは『チャン・グンソクの間』である。

恐る恐るドアを開けると、目に飛び込んできたのは絶望の光景だ。

カーテンに大きく印刷された【チャン・グンソク】。壁には大型テレビよりもさらに大きいサイズのパネルで【チャン・グンソク】×2。ベッドのシーツに【チャン・グンソク】。枕カバーに【チャン・グンソク】。置いてある水のパッケージも【チャン・グンソク】。もはや【チャン・グンソク】地獄である。

とりあえず荷物を置いて、自分が予約した部屋の詳細を再度見直す。するとそこにはハッキリとした文字で『韓流芸能人スタープラン』みたいなことが書いてあった。何故安かったのか、理由が分かった気がした。ブームが下火になった韓流スタールームにド平日に泊まるやつなどいない。空いている部屋を安く提供するのは、ホテルにとっては当然の経営戦略だろう。悪いのはよく説明を読まずに予約してしまった私の方だ。

ただ、百歩譲って【KARA】もしくは【少女時代】の部屋が良かった。いやこの際もう【BoA】でもいい……

慣れない東京で疲れ切った体に【チャン・グンソク】はかなりキツい。私は、ひとしきり笑ったあと、真顔になって枕カバーをひっくり返した。さすがの私も【チャン・グンソク】が印刷された枕カバーで寝るのは嫌だ。

ひっくり返した枕の裏側では【チャン・グンソク】が優しく微笑んでいた。




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