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深夜ラジオと出会った話

ラジオを聞くのが好きだ。夜中にイヤホンで一人で聴くのも良いし、カーラジオから垂れ流しながら長距離を運転するのも良い。最近だとネットラジオをTwitterなんかで実況しながら聴くのもとても面白い。

私がラジオと出会ったのは、中学2年生の頃だった。年末の忘年会で父親が景品で貰って来たポータブルラジオを譲り受けたことがきっかけだったと思う。

それまではラジオの印象といえば、家族で車に乗って出かける際にカーステレオから流れる『日高晤郎ショー』という番組だった。この『日高晤郎ショー』という番組は、日高晤郎というおじさんが毎週土曜日に8時間生放送をするという伝説的な番組なのだが、子供の頃はその凄さがいまいちわかっていなかった。この番組のことも、いずれ書きたいと思う。

自分専用のラジオを手に入れたことで、ここから夜中のラジオ生活が始まる。イヤホンから流れてくるのは、深夜ラジオ。そこで私は、私の人生を捻じ曲げる2つの番組を聞くようになる。

『伊集院光 深夜の馬鹿力』

現在も続く、月曜深夜の伝説的番組だ。それまで【伊集院光】というのはたまにバラエティ番組に出ている太った人、くらいの印象しかなかったが、このラジオを聞いて印象が一変した。今更私が言うまでも無いことだが、伊集院光は紛れもないラジオスターだった。

トークが面白い、企画が面白い、ネタコーナーに投稿してくるハガキ職人のレベルが高すぎる。どれをとっても凄い。

このラジオを聞きはじめてから、何度夜中に爆笑しすぎて父親に部屋に怒鳴りこまれたかわからない。多分、私の「面白い」の基準を作ったのはこの番組であり、伊集院光だ。

初めて聴いた回の印象が強烈だったのか、いまだに内容を覚えている。多分スペシャルウィークで、バレンタインの時期の放送だった。伊集院光が芸能人パワーを使って、当時アイドルだった奥菜恵と遠藤久美子からチョコレートを貰い、それをリスナーにプレゼントしようとする企画だ。

遠藤久美子の方は、対談企画をでっちあげ、そこに中身を舐め尽くしたチョココロネを置いておいて「あーなんか物足りないなー」を繰り返し「よければこちらどうぞ……」とチョコレートを貰う作戦だった。もちろん、成功するわけがない。結果、元々番組側で買っておいた「プッカ」(当時遠藤久美子がCMに出ていた)を一度遠藤久美子に渡し、返してもらうという強引な作戦で『遠藤久美子からチョコレートを貰った』という事実を作り上げていた。

奥菜恵の方は、当時ドラマで共演していたTOKIO・松岡を『自分のラジオで1か月間TOKIOの新曲を流す』という条件で買収し、ドラマ現場に差し入れとして奥菜恵が持ってきたチョコレートケーキを盗んでこさせるという手法でGETしていたはずだ。しかも、そのチョコレートケーキは、防腐処理を施して樹脂で固められ、『文鎮』としてリスナーにプレゼントされた。

こうして文字で書いていると全く面白さが伝わらないのは、私の文章力の低さなのか、伊集院光のトーク力の高さなのかはわからないが、本当に、わけがわからないくらい笑った記憶がある。

伊集院光は私にとってヒーローだ。あまり明るくない学生時代ではあったが、この人のおかげで私は「楽しかった」と感じられるのである。二十年経った今でも、それは変わらない。

こんな風に、二十年近く前のたった1回の内容すら記憶に刻み込まれるほど鮮烈な印象をもって、私は深夜ラジオの世界に引き込まれていった。

『林原めぐみのHeartful Station』

中学時代からそこそこのオタクとして今で言う陰キャな学生生活を過ごしてきたわけだが、当時のアニメオタクの御多分に漏れず「スレイヤーズ」という作品で林原めぐみの洗礼を受けている。

90年代後半のアニメーションは林原めぐみの時代だったと言っても過言では無いだろう。林原めぐみが主役のアニメが終わって、林原めぐみが主役のアニメが始まることすらあったはずだ。月曜から金曜の夕方アニメ全てに出演していたんじゃないかというくらいの稼働率だった。

深夜ラジオが好きで、アニメが好き。その2つが重なれば、おのずと『声優ラジオ』を聞くようになる。

当時北海道ではHBCという放送局で土曜日に、「林原めぐみのTokyoBoogieNight」「国府田マリ子のGM」「宮村優子の直球で行こう」が放送されていた。年代を感じるラインナップである。

そして日曜日に放送されていたのが「林原めぐみのHeartful Station」だった。

今でこそ情報というのはネットでいくらでも取得できるものではあるが、当時は北海道というアニメ貧困地域に暮らすオタクにとって、ラジオは貴重な情報源でもあったのだ。好きなアニメに出演している好きな声優のトークが聴けるのは、本当に『ラジオだけ』だったのである。

特に、毎年、年末年始に放送される「年末スターチャイルドベスト10」「新春林原めぐみベスト10」というリクエスト企画の音源は、カセットテープに録音して何度も何度も聴き直していた。テープが伸びるほど、という喩えはもう最近では伝わらない世代もいるらしいが、あれはあれでワビサビだったなぁなどと思ったりもする。

今でも、このラジオのオープニングで流れる「虹色のSneaker」のイントロを聞くとグッとくるものがある。そして、これを共有できる人とは無条件で美味い酒が飲めると思う。

残念ながら2015年をもって終了してしまったが、今年、2020年1月に1日限定で復活放送をしていて、とても感動した。元々ラジオ関西の制作番組であったため、阪神・淡路大震災から25年が経ったことを鑑みての復活だったそうだ。

以上のように、「伊集院光 深夜の馬鹿力」「林原めぐみのHeartful Station」の2番組は、私を深夜ラジオという沼に引きずり込み、成長期において重要な睡眠時間を根こそぎ奪い去っていった。この2人の名前を並べるのは、当時のリスナー的には若干アレではあるのだが、事実なのだから仕方ないよね。

深夜に1人、イヤホンを通してラジオを聴いていると、パーソナリティーがまるで自分のためだけに話してくれているような「占有感」がある。

それと同時に、どこかで私の知らない人が、私と同じような「占有感」を感じているんだろうな、という「共有感」もある。

私は、ラジオの魅力というのはこの「占有感」と「共有感」という相反するものが同居していることなんじゃないかな、となんとなく思っている。





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