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菜園日記④収穫の喜び、そして畑じまいをした日

失敗談も絶えなかったけれど、収穫の喜びはそれを超えるものだった。市民農園での野菜栽培は5年ほど続き、なかでも大成功した作物はこちら。

①大根②にんじん

大根は全く知識がない状態でネット情報とタネ袋の裏面を頼りに種を蒔く。相変わらず不格好な畝ながらも蒔けばあっという間に発芽。間引いた分は持ち帰って味噌汁に入れて楽しめたし、見る度にぐんぐん成長していくのが楽しかった。アブラナ科の野菜なので虫が付くかと戦々恐々でいた割にはさほど被害も受けず。そして白い根っこの部分がモリッと顔を出したら間もなく収穫の時期。

一度やってみたかった。大根をひと息に抜く作業。子供の頃に読んだ「大きなかぶ」とは違って楽にするするっと抜けた。自画自賛のようだけれど、まっすぐで太く、市販のものに勝るとも劣らない出来映え。ガラケー画像を残しておけばよかったと返す返すも後悔。残りの大根も収穫していたところ、隣の区画のおじさまから「上手だねえ、俺のところはこんなうまく出来なかったよ」とお褒めの言葉を。ビギナーズラックだったのかも知れないけれど、この大根は確かに味も非常に良く、おすそ分けした友人からも美味しくて驚かれたほど。今でも奇跡だったと思う。

にんじんはたっぷりとすじ蒔きに。個人的にはにんじんの葉っぱが好きで、軟らかいうちならおひたしに、成長したら天ぷらにして楽しもうと思い、発芽して成長していく過程でどんどん間引いていった。抜いても抜いてもたっぷり蒔いた種からは沢山の間引き菜やミニにんじんが副産物として楽しめた。最終的に成長したにんじんを収穫し、煮物にした時思わず「あ、昔のにんじんの味」と声に出るくらいに味の濃い、良いにんじんが出来た。秋まき~春にかけての収穫だったこともあり病虫害もなく、比較的楽に栽培出来た野菜だった。

③えごま④パクチー⑤バジル

いわゆる香味野菜。ハーブ類はとても好きだけど畑の土で育てるとどんな感じになるのか?

まずはえごま。以前プランターで育ててみたところ、ひょろひょろと貧弱に育ってしまい虫に食われて終了。バジルにしても同じで、いつの間にか苗が消滅していたことも。これを畑に種を蒔いてみたらどうだろう、と試してみた。

土が良ければ育つだろう、と楽観視していた私の予想のはるか上をいくように彼らは豊かな土に根を張り、太陽に向かい広く葉を広げた。環境とはかくも大きく影響を与えるものか、と思うほどの大収穫を得ることになった。えごまの葉は韓国スーパーで並ぶものに遜色ないくらいに葉の肉質がしっかりしていて香りも強かった。焼き肉を巻いて食べるのもいいけれど、えごまの葉のしょうゆ漬け、そしてこちらも大量に獲れたえごまの実のしょうゆ漬けも作った。えごまの実はしその実より一回り大きくしっかりしていて、ひとつひとつを指でこそげ取りバラバラにする。それをしょうゆ漬けにして冷奴に乗せると絶品。今もたまに作るけれど、あの量はさすがに買えない……

バジルもわさわさと大豊作。1回の収穫でビニール袋2つ分はゆうに獲れた。バジル好きの友人にごっそりおすそ分けして、せっせとバジルペーストを作った。パクチーも元気に育ってくれた。肥えた土で育ったパクチーは香りが市販のものに比べて格段に強い。好きな人にはたまらなく、嫌いな人にはもっとたまらない独特の芳香。さすがに帰りの車の中がパクチー臭で充満した。

⑥ほうれん草⑦きゅうり

ほうれん草はにんじんと同じタイミングで育てた。確か酸性の土を嫌うと聞いたことがあるので苦土石灰を混ぜ込んでみる。そこまで厳密に土づくりをする自信もなかったので真似ごと程度に。順調に育ってくれて、冬の間のビタミン補給とばかりに重宝した。しっかりと肉厚の葉、そして湯がくとお湯が真っ黄色に染まり、昔ながらのアクの強い、濃くて美味しいほうれん草が獲れた。

家庭菜園の定番、きゅうり。支柱の立て方が下手くそで何度補強したか、麻縄を締め直したかわからないくらい。風が吹けば支柱ごと倒れてくるし、私が畑に行けない日には隣のおじいちゃんが直してくれていたり。そしてきゅうりは成長が早い。花が咲いたと思ったらもう実がなる。実の成長もあっという間で、ちょっと数日放置しただけで「ヘチマ!?」と見紛う代物がぶら下がっている状態。出来るだけその「ヘチマ(←きゅうりです)」も持ち帰り、炒めて食べたりした。我が家は夏になると毎日のようにきゅうりを消費するので、それでも余らせて困ることはなかった気がする。


とれたてのスイカ

何年目だったか、スイカを植えてみたいと思った。素人仕事で簡単に出来るとは思っていなかったけれど、案の定「雌花が咲かない」。受粉の為に狙って朝一で行ったところで雄花ばかり。ここは男子校か?ってくらい。ひと夏の間にようやく1個、大きさにして昔懐かしい紙風船くらいのスイカが実った。割ってみると色も味も今一つでなんだかぼやけた感じ。質のいい土を使ったところでやはり素人に太刀打ちできる作物ではなかった。

ちょうどその頃、近くの区画の方が立派なスイカを収穫した。呼ばれていったら、カットしたスイカをその場にいた全員に配ってくれて、みんなでとれたてのスイカを味わった。ほんのり甘くて水分たっぷり。8月の炎天下で収穫したてだからぬるいものではあったけれど、その場でみんなでシェアして食べる、それが最高に「おいしい」瞬間であり幸せな風景だったと思う。


畑じまいをした日

菜園生活も5年を迎えようとする頃、パートで入った職場でフルタイムに昇格させてもらえることになった。仕事をセーブしたくて正社員だった前職を辞めた経緯があったから迷いはあったが、一度仕事を辞めてしまってから短期派遣や単発、パートで働いたりしていく中で再び働く気力が戻ってきていた。

しばらくは休日を利用して畑に通っていたが、夏を越す頃には作物は丈の高い雑草に埋もれ、草の根を取り除くだけで骨が折れた。もう潮時か、と新しい作物は作らずひたすら草を取り除き、少しずつ道具を持ち帰った。次の年の更新はしなかった。寂しさはあったけれど忙しさがそれを追い越していった。畑じまいに悔いはなかった。野菜作り初心者から少しは経験値が積めただろうか。

東日本大震災が起きたのはそれから間もなくのことだった。その市民農園の近くで高い線量が出たとニュースで知って心が痛んだ。以来、仕事の忙しさもあり家庭菜園を再開する機会もなかったが、昨年来のステイホームで今度は自宅の庭でささやかに野菜を作り始めている。

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