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街のパン屋さん

*こちらの記事は、以前はてなブログさんに掲載した記事の再掲です。

商店街や住宅街にある、昔ながらの個人経営のパン屋さんをあまり見なくなった。大手チェーンの美味しいベーカリーや高級ベーカリーも大好きだけど、時に恋しくなるのが昔ながらの地域で愛されるパン屋さん。

特に記憶に残っているのが、結婚した当初仮住まいしていた狭いマンションの近所にあったベーカリー〇〇(個人名)という家族経営のようなパン屋さん。仕事帰りに見つけて以来通うようになった。好きなパン屋さんの個人的条件は、クリームパンの中のクリームが好みであること。香料が強くなくどちらかというと手作り感のある素朴なカスタードクリーム。これだけは今でも譲れないものがあるけれど、意外になかなか出会えない。

そのお店でとても気に入っていたのは、クリームパンの他に「UFO」と呼ばれるクッキー生地をコーティングして帽子にもUFOにも見える形に焼き上げたパン。帽子パンともいうらしい。中に入っているクリームがまた、とろりとしていてミルクと卵の風味がやさしく広がるようなものだった。ほんのり甘いパン生地、周りのクッキー部分の甘くほろほろとした食感。ふつうに考えてカロリー爆弾なので時折のご褒美と称して食べていた(食べてたんかい)。

結婚一年目の我が家、クリスマスケーキはどこで用意しようかなんて考えていた頃、そのベーカリーでケーキ予約を受け付けているではないか!当時の我が家にしては奮発したお値段だったけど、これは絶対美味しいだろうとホールケーキを注文してみた。

結果、想像以上。

決して高級洋菓子店のような華やかさはない。昭和時代の料理上手なお母さんが作ったケーキのような、ずっしりと重量感がありながらふわふわしたスポンジにたっぷりの生クリーム、フルーツはいちごと黄桃のシロップ漬けを使った懐かしいテイスト。早速いただいてみると思ったよりくどくない。いかにもお腹に溜まりそうな見た目に反してさくさくと食べ進めてしまった。とにかくスポンジが美味しいのだ。いくらクリームとフルーツが良質のものでもスポンジがパサパサだとそれぞれが相容れなくて残念な食感になってしまうけれど、スポンジの美味しさがクリームとフルーツを包みこんで混然一体になり胃袋にするりと落ちていくような感覚だった。とはいえ2人で1ホールは流石に幾ら何でも食べきれないので自己責任の下、数日かけて美味しく完食した。

翌年の夏に引っ越してしまったので、そのベーカリーにお世話になったのは1年足らずだった。ふと思い出して今もあるだろうか検索しても引っかかってこない。もう閉めてしまったのだろうか。確かめにその街を訪れてみようかと思いながらも躊躇う思いもある。こんなことなら時折訪れてみては良かったと、この店に限らず思うことが多い。

時折出先などで、小さなパン屋さんに出会うことがある。あんぱんやクリームパンはもちろん、ジャムパンとかチョココロネとかあったら最高だ。決しておしゃれじゃなくていい。ひところ流行った高級カレーパンのカリっとした歯ごたえと中のカレーのクオリティの高さも捨てがたいけれど、ちょっと油じみた、ラグビーボールを平たくしたようなカレーパンを頬張る時の懐かしさはまた別物だ。残念ながら今住んでいるところの近くにはそういったパン屋さんは無い。きっとどんどん減ってしまっているんだと思う。偶然見つけた店に入りたいけれど仕事中だったりでタイミングが悪く通り過ぎてしまった事も多々あって、今度行けたら行く、と思っていた店が次にはもう無いなんてことは当たり前にある。コロナ禍でそれでなくとも個人経営が厳しくなっているこの頃、行きたい店には行っておいた方がいいと改めて思う。


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