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くびれの部分の長さはわずか約240m

いつから飛行機に乗ってないだろう。

空旅が好きと言うわけではないが、少し寂しい気がしないでもない。Uターンして8年、旅行は車で行ける所ばかり、出張はせいぜい大分市まで、帰省は完全に消滅してしまった。


九州各県にある飛行場は、屋久島などを含め、ほとんど利用したことがある。どの飛行場に降り立っても、「ああ九州に帰ってきた」と、いつも同じ感慨があった。帰巣本能に近いものだと思う。

飛行機で一番嫌なのは耳の調子がいつも変になること。楽しみは頭の中で日本地図を広げながら都市や海岸線を目で追っていくこと。


ずいぶん昔の話だが、数日間の帰省を終え、東京に戻る機内から窓の外を眺めていた。幸い、視界を翼に遮られない後方座席だったし、天気も申し分なかった。この飛行機の窓から、もしかすると、故郷の島が見えるかも知れない。見えても不思議ではない。


急に期待が膨らんだ。


ちょうど、大分市の工場地帯が見えている。これから、機体は東に向きを変えるだろう・・・やがて、リアス式の複雑な海岸線が目に入ってきた。あれは臼杵湾だろう。津久見湾も辛うじて見え始めた。

ところが、肝心の佐伯湾は山に隠れてよく分からない。

機長、このまま前へ、ゆっくり進んでほしい・・・そして・・・佐伯湾らしきの地形が・・・そこに・・・


おお、大入島ではないか。

頭の中で大分県南部の地図をもう一度開いた。

間違いない。

99%、間違いない。

さらに大発見があった・・・蝶の形をしていた。


緑色の美しい蝶が、翅を大きく広げて飛んでいるように見えた。


よく考えれば、地形なんて見る角度でどうにでも変わるものだ。樹形もしかり、人の顔もしかり、何も大騒ぎするほどのことではない。と今は思うが、当時はまだ私も若かったし、何しろ自分の故郷のことだから、思わず取り乱してしまった。

普通の地図で見ると、島は特徴的な形はしているものの、少なくても蝶には見えない。もし何かに似ていればそれを売り物にできる。地図を横にしたり、薄目にしたり、いろいろやってみたが、残念ながらこれといったものは見つからなかった。

大入島のシルエットの一番の特徴は、島の中央部にあるくびれだと思う。それが島の北半分と南半分をきれいに分けている。くびれの部分の長さはわずか約240mしかなく、そこで島の東岸と西岸が背中合わせになっている。おそらく、大昔に地盤がずれたのか、それともダイエットをやりすぎたか、どちらかだと思う。

飛行機の中から、大入島を見たのは一度きり、いつかもう一度見る機会はあるだろうか。やはり、蝶の形をしているだろうか。もし、アサギマダラのようにどこかへ飛んでいってたらどうしよう。そうなったら、私の帰る家がない・・・





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