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『サーブ』と『ブロック』はアタックではないのか?

現代バレーボールのことを少しでも知っている人であれば、サーブやブロックが試合の勝敗を大きく分ける要素となっており、これらのプレーは攻撃(アタック)に分類されるプレーとして扱ってもいいのではないのか?と考える方も多いのかもしれません。

しかし、実際のところ、”バレーボール用語”としてのアタックはサーブとブロックを除くすべての攻撃プレーを指しています。

現代の世界トップクラスのバレーボールを見ているとアタックからサーブとブロックが除外されていることに納得のいかない人もいるかもしれませんが、それぞれの語源やバレーボールの歴史を見てみると、サーブとブロックがバレーボール用語のアタックとして識別されない理由が分かってきます。

サーブの起源はテニスにあり

まず、サーブの起源を捉えるにはテニスの歴史を紐解いていく必要があります。
13世紀のフランスの貴族階級によって考案された「ジュ・ド・ポーム」がテニスの原型と言われています。

実はこのスポーツ。現代のテニス競技とは全く異なった趣旨を持ったものでした。二人のペアになってどれだけ長くラリーを続けられるかを楽しむゲームでした。

このゲームを始める際に召使い(servant)が最初のボールを打ちやすい位置に投げ入れたことが、サーブの起源です。サーブ(serve)の日本語訳は『仕えるであり、奉公する』なのです。

そして、バレーボールはテニスを始めとしたバトミントンなどの他のスポーツを参考にして創り出されたスポーツです。こうしてサーブの起源を知ると、そこには攻撃的要素が一切存在していないということが分かります。

ただ、その一方で現代バレーボール(現代テニスについても同じ)においてサーブは年々、攻撃的要素を色濃く強く持つようになってきています。
※しかし、その一方でバトミントンのサーブについては依然、サーブの起源に基づいた形態をとっているというのは非常に興味深い。

特に男子の世界トップレベルでは『スパイクサーブ』が多用されており、この名前からも分かるように完全に攻撃的プレーとして位置付けられているのが実際と言えるのではないでしょうか。

ブロックとは相手の『アタック』を防ぐプレーだった

ブロック(block)の意味は『防御する。妨害する。』です。

本来的には相手チームからの『アタック』を防ぐことが目的であったのは言葉の意味から見ると明白です。このように考えてみるとブロックが『アタック』に含まれず、あくまで『ディフェンス』としての位置付けなのだということは解せます。

しかし、サーブの歴史と同じように徐々に攻撃的要素を帯びるようになり、現代バレーボールにおいては、相手のアタックを防ぐことに留まらず、即時的にアタックし返す、カウンターアタックとも呼べる存在へと変化してきています。

そして、この変化を捉える上でバレーボールのブロックに関するルールの変遷に注目する必要があります。ブロックに攻撃的要素を付加したり、その存在感をより大きくさせるきっかけとなった重要なルール改正がこれまで二回あったように思います。

一つ目の改正が、1965年のブロックのオーバーネットの許容です。このルール改正によってブロックの攻撃性が増したということは容易に理解することができるでしょう。まさに守備的プレーから攻撃的プレーへの転換期であったことは間違いありません。

そして、さらにその後、重要なルール改正がなされます。

二つ目の改正が、1977年のブロックのワンタッチがカウントされなくなるというルール改正です。このルール改正が意味することとは何なのか。

チーム内での三回という極めて厳しいボールタッチ回数の制限がある中、ファーストタッチになり得るブロックのファーストタッチが一回としてカウントされないということです。

つまり、レシーブに繋がるワンタッチをとることさえできれば、ディフェンス側は時間的な猶予を与えられ、十分な攻撃準備をし、優位な攻撃体勢を整えた上で攻撃に転じることができるようになったと言えます。

この改正によってブロックが試合の勝敗に与える影響はさらに多大になったと言えると言えます。直接ブロックを得点に繋げようとする攻撃的なブロック(キル・ブロック)だけではなく、戦術としてのチーム連携を重視したトータル・ディフェンスとしてのブロック(ゾーンブロックやソフトブロック)という意識がより強まったと言えるのではないでしょうか。

バレーボールのトレンドを理解しようとする際に、ブロック戦術の変遷を無視することは決してできません。

『サーブ』と『ブロック』はアタックではないのか?

では、最後に本記事のテーマについて今一度考えてみたいと思います。

『サーブ』と『ブロック』はアタックではないのか?

この問いに対する私の答えは、アタックでもあり、ディフェンスでもあるというものです(なんとも曖昧な答えですが)。

バレーボールは、そもそも野球のように攻撃と守備が切り分けられたスポーツではなく、ラリーの中で瞬時に攻撃と守備が交錯するスポーツです。そして、一つ一つのプレーを見てみても、その視点や解釈次第では「攻撃」とも言えるし「守備」とも言えるようなものがたくさん存在しています。

そして、バレーボールの歴史の中でも、特にその意味合いにおいて大きな変化(進化)をし続けてきたプレーの象徴がサーブであり、ブロックなのだと思います。

それぞれのプレーを理解するために名前をつけ、分類し整理するということが重要なのは言うまでもありません。しかし、それらに縛られ思考してしまうことで、逆に実際に起こっている現象を深く理解することができなくなってしまうのではないかとも思います。

バレーボールの歴史を学び、正しいバレーボール用語をきちんと覚えて整理しつつも、その『用語』に縛られない柔軟な思考をもって、バレーボールをもっと考え続けたいと思います。

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。