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世界最高峰の育成機関、ベンフィカから学ぶ

月刊フットボリスタ 2019年10月号
加速する欧州の「10代マーケット」日本の若手が狙われる理由

本記事は、上記書籍の特集記事『「育成マーケットの勝者」の哲学』を読み、考えたことをまとめたものである。

育成部門はコストなのか

トップチームが持つ育成部門は経営的な視点からみるとコストである。

これが一般的な日本人の感覚なのかもしれない。おそらく、育成が大事だとみんな言っているし、実際には思っているがクラブ経営的な視点から見ると日々のリアルな資金繰りなどを考えるとコストだという認識は拭えないだろう。

しかし、ポルトガルの総合型スポーツクラブであるベンフィカというチームの育成部門に関してはそうとは言えないようだ。

過去三年間のマーケットだけで、ベンフィカが手にした移籍金は約400億円だというではないか。

このクラブにおいては、育成部門はりっぱな「金の成る木」であるようだ。

育成をお金を生む道具のように考えるのは好きではないが、実際に移籍金で生まれた利益を育成環境の向上に還元しているからこそ、素晴らしいプレーヤーを輩出することができているとも言える。

ベンフィカの育成部門にはとても興味をひかれるものがある。

ベンフィカのアカデミー理念

さて、そんなベンフィカのアカデミーはどのような理念のもとで活動しているのだろうか。

私たちのミッションは、若い選手たちを最高の方法論と育成の原理原則、きちんと統一された育成組織、そして『ベンフィカらしさ』によって鍛え上げることにあります。
ペドロ・マルケス(ベンフィカ/アカデミー・テクニカルダイレクター)

理念というと、フワッとしているものが多いが(自省もこめて)このアカデミーの理念には何か強い意思のようなものを感じるし、何を大切にしているのかがストレートに伝わってくる感じがする。なんというか「グッ」とくる。

4つのキープロセス

さて、次にベンフィカのアカデミーのキープロセスについて簡単に私の解釈も交えながらまとめてみたい。大きく4つのプロセスがあるという。

1にタレント、2に育成方法、3に競争、4に機会である。

1. タレント
まずは、タレント(才能)のあるプレーヤーを発掘するという考えが第一義的にある。そして、その才能を開花させるための時間的猶予と環境(サッカー・生活など全部含めて)をアカデミーが用意するという考えが第二義的にあるということだ。つまり、発掘して終わりではなく磨き上げまで含めて「タレント」のプロセスだという認識だ。

2. 育成方法
育成の場を「サッカーする場だけ」という狭義な意味では捉えず、ホリスティックで専門的なアプローチを大切にするという考え方。コーチングスタッフ以外に心理学の専門家・ドクター・栄養士・学校のサポーター(勉学)等のスタッフが存在していて、日々の生活や学校生活まであらゆる面を「育成の場」とするを考え方。

3. 競争
プレーヤーの能力や特徴、身体的成熟度、パフォーマンスレベルなどを考慮した上で、そのプレーヤーに最適の競争・試合環境を提供するという考え方。上位カテゴリに上げることもするが、逆に下位カテゴリに下げてプレーさせることもある。客観的な評価をもとに、プレーヤーにとっての最適な「競争」環境を用意する。

4. 機会
どのプレーヤーにも十分なプレー機会を提供しようとする考え方。具体的には、Bチームをつくり、多くのプレーヤーが試合に出ることができるようにしている。それぞれのプレーヤーが自分に適したレベルで試合経験を積めるような環境設定をしているのだ。

ベンフィカから学ぶべきこと

ベンフィカのアカデミーがやっていることを誰でもすぐにできるだろうか。

正直、難しい部分は多いだろう。

しかし、学ぶべきことは多く、自身がコーチングする環境の中で取り入れたり、アレンジしてやってみたりすることできるのではないかと思っている。

こうした海外のビック・クラブがやっていることをそのまま真似しようとしてもできないし、もしもそれができたとしてもおそらく破綻する(国やチームの文化や環境がそもそも違うから)。

真似するのではなくその考え方を学ぶことが大事。そして、その先がさらに重要である。

失敗を恐れず「やってみること」だ。

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。