【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと  18/30

けっきょく、彼女が何を求めているかよくわからなかった。すくなくとも、ぼくが一方的に求めることはよくないな、とおもった。でもどうやら、彼女のなかには、迷いのようなものはなかった。

それに、よく考えたら彼女はフリーだし、なにもぼくたちを阻むものはなかった。いや、やっぱり、当方には阻むものはあった。どうしてもぼくは、亮介さんのことをかんがえると、うしろめたさはあった。一方で、あおいさんはずいぶんと割り切りのできるタイプらしい。

そのあと、あおいさんとはねんごろな関係になった。だんだんとぼくも、うしろめたさがなくなり、割り切りができるようになった。というか、ややこしい事情はわすれて、目の前の女性との時間をたのしもうとおもった。

しかし、ぼくらはセオリー的な関係にはならなかった。なにか、そういうものを彼女はぼくに求めていない気がしたからだ。ただ、草食男子はなかなか告白してこないという話を、赤文字系雑誌でよんだので、念のため、一度聞いてみた。

「よかったら、ぼくと付き合いませんか?」

「そういうことをしたから、付き合うとか、きみは昭和の人間なのかしら」

「昭和の人は、今ほど、そんなことする以前に、もっとおしとやかだったとおもいますけど」

「冗談よ。付き合ってもいいけど、ほんとにわたしのこと、すきなの?」

「あおいさんのこと、すきで」

「しってるわよ」

「早いですよ。ぼくもそういう形式にはこだわらなくてもいいですけど、もし、あおいさんが意外に、本当は、しっかりとした乙女だったら、しっかりとした手続きをしておかないとおもいまして」

「なによそれ、わたしが女じゃないみたいな言い方。亮介にも似たようことを言われたことがあるわ。まあいいわ。気をつかって告白してくれたのね、ありがとう。でも、そういう形式は気にしなくていいわ」

「だいたい同じ考えでよかったです」

「そうね。やっぱり、わたしおもうんだけど、ことばを通じたやり取りっていうのも、コミュニケーションの手段だけど、体を触れ合うコミュニケーションっていうのも、なかなか人前ではいいにくけど、とってもたいせつだし、とってもしあわせなことだし、たのしいことだとわたしはおもうの」

「そうですね」

「それで、きみとは、どっちのコミュニケーションも、すきなのよ。どちらかいうと後者の方が上かしら。だって、あなた、しゃべるのが下手くそだから」

「ひどいですよ」

「そうよね。ほんとうは、しゃべってる内容なんて、なんでもいいの。いっしょにいる空気感だけで充分なの。さいきんみた映画の話であろうと、トイレの便器のかたちの話であろうと、あなたの話には、なんのオチも笑いもないけど、そんな下手くそなしゃべりを聞いていると、それだけで落ちつくわ」

「やっぱりひどいなあ」


ーーー次のお話ーーー

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