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【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと 12/30

ドバイというのは、アラブ首長国連邦を構成する首長国のひとつである。日本でも、金持ちの国としてテレビで紹介されることがある。夏場は気温が五十度くらいになる。想像がつかない。

だが、ぼくたちがいくのは冬場のドバイだったので、二十度くらいで、けっこう過ごしやすいらしい。「地球の歩き方」に書いてある基本情報を頭にいれながら、関西国際空港からエミレーツ航空に乗った。

日本人はいくらかいたけれども、ほかには、アラビア人だったり、中国人だったり、インド人だったりした。

飛行機で、亮介さんと話していると、日本人の客室乗務員が対応してくれた。気持ちとしては落ちついたが「フィッシュ・オワ・チキンのやり取りをできなかったのは、ざんねんだ」と亮介さんはおおげさに落ち込んでいた。

深夜便だったが、亮介さんとビールや日本酒やら、ワインをあけた。亮介さんは、さっきまでの能天気さはなくなり、飲まずにはやっていられない心持ちのようだ。


ドバイ国際空港につくと、あおいさんが迎えにきてくれた。ブルジュ・ハリファやパームジュメイラといった人気のある観光地を案内してくれた。この国は、やたらめったにデカくて派手な建物をつくるのがすきなようだ。

砂漠しかなかった土地に、石油で儲けた金をつぎ込んで街ができている。まさに砂上の楼閣ということばがふさわしい。

ブルジュ・ハリファで日本人をみかけた。ぼくはガイドの英語が何をいっているかわからなかったので、だいぶ理解していそうなその人に声をかけた。ドバイでデザイナーをしているという。

デザイナーにしては、地味で野暮なかっこうをしていた。ベージュのチノパンに無地の白いポロシャツを着ていた。おそらく、ユニクロで揃えている。

彼は仕事がつらすぎて、高いところに行きたくなったらしい。こんな観光客しかいないにぎやかなところへ、一人でくるくらいだから、ずいぶんと変わった人だった。

精神的に参っているときに、高いところに行きたくなるらしい。そのまま、そこを死に場所に選びそうで、ちょっと危ないような気もするが。

そのデザイナーにドバイのおすすめのご飯をきいてみると「そうだね、タイ料理がうまいよ。あと中華もうまいよ」という回答を得た。アラビア半島まできて、アジア料理をおすすめされるとはおもわなかった。

いちおう、メモをとるフリはしておいた。どうか高いところから落ちることはないように、と彼の人生の行く末を案じるのであった。


ーーー次のお話ーーー

ーーー1つ前のお話ーーー


 


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