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【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと 14/30

そのあと、亮介さんは、なんでドバイにはインド人が多いのか、ドバイの人はどうやって恋愛するのか、などなど、アラビア人の生活習慣についての質問をくりかえした。外堀を埋めることにこだわった。なかなか核心に触れられなかった。

「それで亮介はなんで、ドバイにきたの?」
とあおいさんがきっかけを与えてくれた。

「おおん」
といったあと、亮介さんはジムビームをすこし飲んだ。

「留学が終わったら、ぼくと付き合ってくれないか?また一緒に住みたいんだ」

今度はあおいさんがジンバックをすこし飲んだ。

「それをいいに来たのね。でも、亮介は東京に就職するんでしょ?わたしが東京に就職するとは限らないわよ。それだと、同棲はできないけれど、いいのかしら?」

「ひーん。その、同棲というのは、あくまで手段であって、目的は、きみとできるだけ多くの時間を共有して生きていきたいんだ。

来年のいまごろになったら、ぼくと別れてからずいぶん経つ。たぶん、きみもいろんなものをみて、考え方もかわってくるとおもうんだ。

それで『亮介、そろそろ付き合ってもあげてもいいわよ』って気持ちになってくる、とぼくは確信しているよ。名古屋だろうと、福岡だろうと、それくらいの距離ならぼくたちなら、やっていけるとおもうんだ。ドバイは無理だけど。」

「そうね、考えとくわ」

しばらくだまって考えたあと、あおいさんは言った。亮介さんは、核心にふれたので安心して、ジムビームを追加した。

結果、亮介さんはべろんべろんになった。帰りのタクシーで吐きそうになっていたが、なんとかホテルに連れてかえった。

次の日、あおいさんと会うという目的を果たしたので、亮介さんとぼくは時間を持て余していた。

時差を利用して無理をすれば、ホテルに泊まらずに空港に直行し、帰国のフライトを待つという素敵なプランもあったが、せめて一泊はしようということで、1泊4日の旅になった。

きょうは、何もすることがなかった。暇だった。ホテルのフロントで、砂漠の夕日をみるというツアーがあったので、参加することにした。男二人で夕日とはなんともロマンティックではないか。

トヨタのランドクルーザーにのった。そこでも、日本人にあった。彼は、トヨタの社員だった。彼自身もどちらかというと若者だったが「いまの子はなかなかクルマに関心がなくてね」と愚痴をこぼしていた。

このツアーにも、ランドクルーザーがつかわれているから、お客様の目にこの車がどのように映っているのかという市場調査をしに来たようだ。休日まで仕事のことをかんがえるなんて熱心なサラリーマンである。

「あいつ、ほんとうに時間を守らないんだよな」と部下のアラビア人の愚痴をこぼしていた。亮介さんとぼくとトヨタ氏の三人で夕日をみた。「今までにはみたことがない夕日だな」という当たり前すぎる感想をもった。

そして、なんでぼくは亮介さんと、こんな見知らぬ人と、ドバイできれいな夕日をみているのだろうとおもった。帰りの道中でトヨタの彼は、日本の本社との意見が合わない、という愚痴をこぼしていた。

そうして、亮介さんとぼくの奇妙な旅行はおわった。帰りの飛行機は朝の八時くらいだったけれど、「時差的にもう日本は昼だから」といって、またビールやらワインを飲んだ。

亮介さんの表情には、大仕事をやってのけた達成感があった。


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