【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと 27/30
《9 東京》
この部屋とも、これで最後かとおもうと感慨深い。陽子さんとの合戦も、あおいさんとねんごろになるのも、この部屋で行われた。ぼくは就職することになり、東京にいくことになった。
きょうは、引越である。雰囲気を出すためにそばをたべている。日清食品の赤いやつである。
青い引越屋さんが三人でやってきて、あれやこれやをつめこんだダンボールをポンポンポンと運んでいく。
プロにお願いして引越をするのは初めてだったので、彼らとの距離感がわからず、依頼主として、なにをすべきかもわからず、部屋のすみで彼・彼女たちのしごとを所在なくみつめているしかなかった。
すべての荷物がトラックにおさめられると、不動産屋がやってきて、部屋のなかを点検していった。
別れ際に、相手側にとっては四年間というのは、長いのか短いのかを考えてみたがこたえは出ず「お世話になりました」とややそっけないあいさつになった。相手側も「どうも」という手短なものだった。
あるいて三田駅にむかう途中、あおいさんに会った。
「あおいさん、お疲れさまです」
「わたし、なにも疲れることしてないわよ」
「そんなこと言わないでくださいよ」
「冗談よ」
「例の彼氏さんとはどうですか?」
「まあ、仲よくしてるわ。東京との遠距離だったけど、よく一年も続いてるとおもう」
「これからは、あおいさんも東京ですから、彼氏さんとたくさん会えますね」
「たぶん、会う頻度がおおくなって、しんどくなるかもだけど」
「東京でもぼくの部屋に来てくれますか?」
「ええ、もちろん」
「わるいひとですね」
「どういたしまして。そちらこそ」
なかなかイタズラっぽい笑顔が素敵だった。
三田駅から大阪へむかう電車のなかで、もう二度と三田には戻ってこないだろう、と詩的なことをかんがえていた。
新大阪駅について、新幹線にのりかえると、大学四年間のすばらしさや感謝を込めた暑苦しい文章がフェイスブックを埋めつくしていた。「いいね」をつけたり、社交辞令なコメントを書いたりしてすごしていた。
スマホをながめながら、このなかでどれくらいの人たちと今後も付き合っていくのだろう、だれと付き合っていきたいのだろう、ということを考えていた。
亮介さんとあおいさんと谷口の顔がおもい浮かんだ。ほかの人だったら、もっとたくさん思い浮かべる友達がいるんだろうなとおもったら、すこしさみしくなった。そのうちに、東京駅についた。構内の人ごみがますます孤独を感じさせた。
ーーー次のお話ーーー
ーーー1つ前お話ーーー
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