【小説】 亮介さんとあおいさんとぼくと 21/30
「わたしは、いくらだれかと関係をもっても、亮介のことはすきだから、そこに心変わりはまったくないのよ。だから、浮気にはならないの。まあ、今は亮介とは付き合ってはないけど」
「むしろ、新しい彼がいるのだから、形式的としては、亮介への想いが浮気なんだけどね。浮気とか不倫なんて、しなくていいなら、しないわよ」
「わたしがしたいのは、素敵だなとおもう人といっしょに過ごしたり、コミュニケーションをとりたいだけなの。その手段のなかの一つに『アレ』があるだけなのよ」
「奔放ですね」
「そういわれると、そうね。でもね、彼女や奥さんを奪うつもりなんてさらさらないわ。だからわたし、すでにパートナーがいる人とは、パートナーとの関係性を変えないって決めてるの」
「そのルールを守れる人とだけ関係をもつことにしてるの。もし彼女とか奥さんと別れてでもわたしといっしょになりたいって人がいたら、・・・もし、よ。仮の話だけど、即刻、関係をきるわ」
「もし仮に、あおいさんが不倫をしていても、ぼくはなにもいいませんよ」
「ありがとう。わたしの先輩でね、会社の上司と関係をもったひとがいるのね。上司には妻子がいるのよ」
「もう、ほんとうに、ドロドロで、ズブズブで、最悪の関係だったわ。だから、わたし、絶対に、ああいうふうにならないように気をつけてるの。マナーとして」
「そういうのにもマナーがあるんですね」
「浮気の時点で、マナーもくそもないのにね。人を殺すけど、それにも作法がある武士道みたいなものよ。あとね、浮気者としての職業意識のようなものがあるというか、そういう共犯意識がある同士ってけっこう強いとおもうの」
「ほかの人たちとは違ったかたちで、精神の深いところでつながりを感じるの。精神性っていうと宗教っぽいけど、確実になにかを特別なものを感じるのよ。あなたとわたしだってそうでしょ?」
「そうですね。よくわからないですけど、なにかはあるような気もしなくはないです」
「おおん、くどい言い方してくれるわね。晴耕雨読」
「なんか亮介さんみたいな言い方ですね。そんな、なんでもありな恋愛観というか、頭のおかしい考え方をしていたら、結婚なんてできないんじゃないですか?」
「そうかもね。さっき、結婚はまだ早いとはいったけど、結婚は一応したいとはおもってるのよ。なぜ、一応かというと、結婚そのものはどっちでもいいの。それよりも、わたしはこどもがほしいの」
「本能というか、どうしてもほしいのよ。こどもがほしければ、だいたい結婚という手段で落ちつくわよね。まあ、未婚のまま、こどもをそだてるって手段もあるけど、なかなか世間が、社会構造が、それをゆるさないわね」
「生活していくの大変なのよ。だからというか、しかたないというか、結婚をすることを視野に入れているわけね。といっても、しばらくは、こどもよりも、じぶんのキャリアが最優先。こればっかりは、どうなるかわからないの」
心の中に、こんな地獄や矛盾を抱えながら生きるのは大変なことだとおもった。あおいさんという人間のなかにある闇は相当深い。
だからといって、ぼくは彼女のことをいやだとおもわないし、そういうところも魅力ですらある。ただ、彼女の人生は、ルールやマナーやモラルといったものと折合いをつけるのが困難な道を歩んでいるのだなとおもった。
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