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【小説】二十歳、父からの手紙

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父親から20歳になった息子への手紙。息子がまだ生まれる前に書かれた手紙。家族に起きたある出来事について、死生観を交えながら綴られている。
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2018年10月の記事一覧

5. この世界には死がありふれているのにも関わらず

5. この世界には死がありふれているのにも関わらず

確かに、私たちは死ぬことよりは生きる方がよさそうだから生きている。私たち働く方がよさそうだから働いている。そういうものだ。できることなら労働とは距離を置いて生きていたい。

実際のところ社会の構造がそれを許さない。だから、何かの職業を選び、これで大丈夫だと思って、規定のレールに乗り、時にはその上で迷いが生じているのだ。

今日も私たちの日常生活は続く。夕方のテレビでは、病院において新しい人

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6. 人生の意味を知らない弟

6. 人生の意味を知らない弟

その年の夏、千葉の弟から手紙が来た。チヒロは高校を卒業した後、千葉の国立大学に通った。彼は私と比べてずっとスマートな頭脳を持っていた。そして、私よりはるかに歪んだキャラクターを持っていた。

「私はもはや人生の意味を知らない。どうにかして管理しようとしても、状況は改善されるとは思えない。生きているのはいやだ」

彼から時々この種の手紙を書いた。私も別に生きる意味なんて持ってない。私自身の意味な

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