朝礼台と話し下手な校長
高校生の時の話。
赴任してきた新しい校長は格別に話が下手だった。
藩主の城跡に創立された母校は、この辺りじゃ名の知れた伝統校でそこそこの進学校でもあった。
当時は学校の音が周辺に漏れようが、そんな事お構いなし。そもそも学び舎から聞こえる様々な音に、騒音だ!なんて文句ゆう人もいなかった。
放課後になればグラウンドでは野球部が大声あげながら練習が始まるし、その様子を熱心に観戦する人もいた。運動会が近づけば、応援部は遠慮ない大音量を発するし、甲子園前になれば吹奏楽部は演奏に力が入る。
学校から響く音なんて寧ろ風情があって、自然な生活音のひとつでもあった。
でも、ひとつだけ気がかりな音があった
朝礼だ
毎週月曜だったか、晴天の日は広い運動場に全校生徒が召集され朝礼があった。暑い日なんかは、1分1秒でも早く終わってほしいと心で願う、あれ。
暗黙の式次第には、必ず「校長先生の話」が挟み込まれる。
去年までの校長は問題なかった。
いや、去年だけではない。中学校、小学校、なんなら幼稚園の園長先生、歴代の校の長達の代表演説には何の問題もなかった。
赴任してきた校長を除いて。
全校生徒を目の前に、一段高い朝礼台からマイクを介し校長先生の話は始まる。よくある光景だが、着任早々、我々は違和感を感じていた。
ん?
なんか言ってる事がよく分からない
召集される度、早く終わればいいのに…と心で願う我々の空気に対抗したのか、笑いを取ろうとして大すべりしているのだろうか。時折マイクのハレーションで途切れながらも、今日もまた意気揚々に校長先生は話を続ける。
そこそこの進学校なので、それなりの礼儀と読解力を備えた生徒が多いはずだが、校長先生の話が始まるとざわつき始める。
ザワザワ、ザワザワ
やはり何が言いたいのかよく分からない
話に脈絡がなく、高確率で脱線する。起承転結を無視した展開に迷いなど無い。話は堂々と脱輪状態で締め括られる。その一部始終に、若き高校生達は戸惑うのだ。
今日もさっぱりじゃないか
結局、何の話だったんだ
これは謎解き?
一周回って、今日も違いないと期待する生徒もで始めた。私は一周回って、これが周辺地域の皆様に筒抜けであることに心配した。
真横にお住まいの奥さんなんぞは、洗濯物を干す手が止まったかもしれない。朝から堂々とよく分からない大きな話し声が始まるんだから。
人前に出る時は、しっかり話すことを決めてから朝礼台に立とう。漏れ放題の音を気にしながら、そんな事もあったなあという話でした。
話術は大切
タイムスリップしてこの名著をお渡ししたい。
久しぶりに読み返そう。
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