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儚くて美しい物語り

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繊細で儚くて美しいものが大好き♡ そんな物語をまとめました SAIワールド全開でどうぞ('◇')ゞ
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#恋

赤い金魚と僕の物語り

風が止み、夕焼けが空を染める頃、静かな町の一角に佇む古びた家。 早くに両親を亡くし、姉は嫁ぎ、広い家にただ一人。生きるために生きている。三十路を目前にし、僕は考えることを諦めていたそんな人生について向き合っていた。金魚鉢の前に座り、水槽の中で穏やかに泳ぐ「金魚」に話しかけて。それは、投影していたのかもしれない。金魚鉢で飼いならされる金魚と僕を。 姪っ子がお祭りで手に入れたその金魚は、飼い猫を理由に僕のもとへと託された。とても小柄で泳ぎ方が少しだけ変な真っ赤な金魚。定期的に水

うつろい儚く散れますように

声が、声が。出そうとしているのに出てこない。どうしてこうなったのか全く覚えていないけれど、私はどうやら死んでしまったようだ。そして病む私。死んでも病んじゃうんだ、つらい。 目の前には夫が私の名前を呼びながら泣いている、ねぇ私ここにいるよ? もう何十回何百回、いや何万回と叫んだけど私の声は届かなくてそれでも彼の時間は進み続けることに後悔している。 知らなければよかった、あなたがこんなに私を思っていただなんて。私が死んで20年。変わらず私を愛してくれている。なんでそこまで私にこ

炭酸刺繍【企画に参加】

水槽のポンプからは炭酸のように泡がぶくぶく 金魚は刺激的に泳ぐ 泡の中に映るは、過去の記憶の断片 記憶の糸を紡ぐように、泡があふれ出す しゅわしゅわはじけ飛ぶ泡は自由に舞いあがり まるで手仕事の織り成される刺繍のように 繊細で美しい緻密なデザインは 甘美な思い出をそのままに 光を反射し心を動かすキラキラ あの人を思い出させる記憶がパチパチと 目に浮かぶ笑顔、忘れもしないあの日 抜けてしまった炭酸が手のひらでじっとりと まとわりつく、水ですべて流せればいいのに 淡く切ない

彼女の色

ワクワクってどうやるんだっけ ドキドキってどういう気持ちだっけ 感情を忘れるためにかけたフィルターは 何枚何十枚いろんな色を重ね カラフルだった心はいつしか 限りなく黒に近くなった 「どうしたの?」 柔らかい笑顔で見つめる彼女に声をかけた 「桜の花びら持ってきてくれたの?」 僕の肩にそれはついていて 「手にしてみたいかなって思って」 桜を彼女の指にそっと乗せる 咄嗟に出た言葉だった 「触りたかったの、ありがとう」 そういって満面の笑みを浮かべる 梅雨のある雨の日に会い

凍てつく想い

息をのんだ 君は見えてはいけない人なのかと思うほどに 美しく、透明な、悲しい目をしてた なぜそんなに悲しんでいるんだい 何をそんなに見つめているんだい 君の視線を独り占めしたいと思ってしまった 光にかざしたビー玉のような美しさも 今にも泣きそうなその悲しみさえも 触れたいと思ってしまった 君の冷たい手が僕の肌に触れると まるで氷のような冷たさが僕を貫通し 身体の奥までしみ込んでいった あとがき 恋は一瞬