人の形⑥
天井を見ていた。見ていることにようやく気づいた。ずっと何もしていないことには、まだ気づいていない。
どうして体が起こせない…。
部屋には彼女がいないのに、どこかで香水の匂いがした。部屋全体に染みついているのは甘くて変なお香の匂いなのに、今は香水の匂いを感じた。
この枕か?
そう思った瞬間に枕を足元目掛けて投げた。するとタバコの匂いがして気持ち悪くなる。彼女を今は思い出したくない。
電球すら眩しくて、左手で影を作った。
欲望の果ての匂いが染みついている。それは左手だけじゃない。右手も、口の中もこのシャツもだ。なぜかその流れで利き手で自分の中の権力者を軽く触り、その匂いを鼻元に運んだ。
彼女よりも彼女の匂いがした。
いったい、何日が経ったのだろう…一生この部屋にいる気がする。これが終焉の果てなのだろうか。
「手がかからなくて初心者でも簡単に飼える人」
その通りだと思った。
「誰に…誰に言われたっけな…」
涙が流れていた。
「本当に優しいよね」
ずっと、何度も褒められていると思っていた。
そうじゃない、愛されたかったから。嫌われるのが怖かった。だからあの人にも自分にも、嘘をついていた。
追いかけたり、追いかけられたり。そんな夢をいつも繰り返し見ていた。
職安に行こうと、ようやく体を起こした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?