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玉章



ツバクロの子等の白殻土間に墜ち
見上ぐる天界は土の要塞



曇る空に
車道の側溝の暗渠の
暗い天窓からきこえるのは
翠色した雨の歌

わたし

きょうを狂と ひを非と変換する朝は
わたしという語を愚者と変換するだろう
岐路の前で

最後の審判

未来という空地捨てられず 賞味期限きれた豆玉ポケットに入れており

賞味期限という時を地中の種子はもたぬ
だから
地中の種子は絶望しない
ただ忘れて とどまる
空地を空地のままにして



おかえりとくり返しさけぶ
古巣みゆるか大きな燕土間の上を飛び



アマガミの痕を残して逝った
きみの薔薇色の星は
まだ 
ぼくの指の上でまたたいているよ



雲のなげたツブテトラックの天板でうける 暗い空の街へ突入する夕暮

シーシュポスの神話

シーシュポスという名のジムから出てくる男女等は不条理というものの英雄なのか カミュよ

此岸

片方のつばさ此岸に残した熊蝉の亡骸をひろう 夏が来ぬまえに

希望

昨日の希望がふくらませたのか
そのままに轆轤のうえに壺残っておるを見

左手

生きるものは陽にそまらぬ 冷たきものに触れたくて君の左手この手で包むを夢みる

ルシフェル

暴力をもたぬものに正義などないなら
暴力などもたぬルシフェルになる
私は

自転車

春風に反発する音きこゆ 一対の耳朶ペダルのうえの空を飛び

ムラサキシジミ

片方のはね氷にはりつくシジミに
息吹きかければ青紫の色ひろげてくる
壺の縁


はね

羽がとまれるように
たちあがり うでをひろげ
羽が飛び立つように
峻厳な崖になる

旗振り

ベルトつけ変身をせずたちつづく 
進み方知らぬ怪人の車赤い旗で止めて

裸木

夕映のいろ 群れて枝にとまっておる
夜に還るそのまえに

分枝する角度の総和をもとめている
この裸木の大きさ君に告げるため

カラス

クァるる クァるる クァるる
クゥワア クゥワア クゥワア クゥワア くり返すその数には カラスなりに意味があるのかも知れぬと思いたつ朝 メシアンがラジオから流れる

うぐいす

うつくしい吃音で啼くうぐいすの音きこえ朝のみちゆき



明るき星ひとつと併走する 車をおりて見上げれば満天の星
命日の空にあり

裸木

葉を落としたくぬぎは
冬のそらを
霞んだ蒼い山を
他なる木の細いうれを
まとう
裸木は季節の色から自由で
それ自身にたいして透明である

バケツ
冬の陽頭皮をてらす温かく バケツの洗い方思いだし外側から洗う

クライ

崖をのぼってゆくなら 採りつくし食い残さず採り残し完食する 高所が怖くて震えている

クレイ

先客ありぬるぬるの土猪にも気持ち良きかそれとも喰うのか 猪の跡辿りて土を採る

松皮刀

真夜中にひとり松皮刀(はがたな)削って
おる 刃をもてばあすはなにか出来るかもしれぬと想いて

怪我

右手で道具持てば左手傷つく
頭に道具持たばからだ傷つき

包装

商品といふ蛹運んでものつくれば人工の殻と履歴しかうまれぬ
虫もくわぬものならべており


草を抱く泥の抵抗を感じておるザグザグと音たててぬけておれば 
爪の縁黒く染む


まぶしくて前がみえぬ 窓のそとの西日片手でさえぎる
梅の花さく真冬午後

十字路
さあ 命が欲しけりゃ金をさしだせ
という声は暗闇から
さあ 金が欲しけりゃ命をさしだせ
という声は物陰もない明るみから
ささやかれる

  氷
ひとはりの夜をとりだす 冷たく透けて亀裂うかぶも罪なき

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