見出し画像

【一日一捨】 時計

うちには時計がない。
PC画面やスマホを見れば時間はわかるし、掛け時計は部屋の壁に穴をあけるのになんとなく抵抗がある。ピクチャーレールはぶらぶらする感じが落ち着かない。
「だったら置き時計を買えば?」と彼女に言われ、一緒に雑貨屋に行った。
シンプルでそんなに大きくなく、主張しないのがいい。値段も手頃だしこれでいいかと小さな黄色い電池式のを買った。

さっそくリビングに置く。
チッチッチッ…と秒針を刻む音が室内に響く。
家に居るときは基本、音楽はかけない。音楽は聴くときだけ聴くし、テレビも観るときだけ観る。何かをしながら観たり聴いたりは苦手だ。なので、だいたいいつも室内は静かだ。夜は特に秒針を刻む音が思いのほか大きく響く。耳が一度その音をロックオンしてしまうと、ずっと気になり続ける。「どんだけ神経質なの?」って彼女に呆れられたけど、「いや、普通は気になるよね」と反論したら、「私が普通じゃないってこと?」「いや、そういう意味じゃなくて…」と軽く言い合いになったけど、結局そのまま電池を外して引き出しにしまった時間が、止まった針の指し示す、2時7分34秒だ。たしか日曜の午後だった。何年前かは忘れた。捨てる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?