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【一日一捨】 靴紐

靴紐を買う夢を見た。同僚の星野さんと客先から会社に戻る途中、商店街の靴屋に突然駆け込んで、スニーカーの靴紐だけを買うという夢。
星野さんが不思議そうに尋ねる。
「靴紐だけ買ってどうすんの?」
「靴紐って、いざというときにいろいろ役に立つんですよ」
「たとえば?」
「強盗を捕まえたとき縛り上げたり、飛行機事故にあってドアが吹っ飛んで外に放り出されそうになったとき、靴紐で自分の身体と座席を結んで、助かったり」
「なるほど!」

いや、なるほどじゃないだろ。
目が覚めてから、いろいろ自分で突っ込んだ。だが、しかし。
仕事帰りに靴屋の前を通りかかったときに、ふと思った。
そういえば、翌週、出張で飛行機に乗る予定がある。これはもしかすると、何かの暗示かもしれない。さすがに墜落した飛行機から放り出されないために靴紐を使うことはないだろうけど、本当に何かの役に立つかもしれない。別にスピリチュアルな人間ではないけれど、縁起はわりと担ぐほうだし、靴紐の値段なんてたかだか知れているし。一応、買っておくかと、夢と同じように靴紐を買った。

けどまあ当然ながら実際に役に立つことなど何もなく。出張用の鞄の奥にずっと入れて忘れたままだったものが十数年の時を経て発掘された。捨てる。

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