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幻の史織さん

取引先に下の名前が「史織」さんって人がいて、ずっとメールでやり取りをしていた。仕事なので当然固い感じでやり取りしていたのだが、すぐにレスポンスが返ってきたり納期をちゃんと守ってくれることなどから史織さんにとても好印象を抱いていた。

次第に文面でも少し砕けるくらいの仲になり、「次の納期は○日ですね、りょうかいですー!」とか「忘れないように毎日備忘メール送りつけますね!」とかちょっと軽い感じでやり取りも交わせるようになっていた。


そんなある日、打ち合わせで史織さんに会うことになった。ついに初対面である。

待っている間に色々と思考を巡らせた。

打ち合わせ終わりに「せっかくなので軽くコーヒーでも」とカフェに誘い、仕事上の話は抜きにしてプライベートでの親交を深め、ゆくゆくはおしゃれなバーのカウンターでワインを傾け合う仲に発展するくらいまでは軽く想像してた。中学時代のクラスメイトとかも思い出してた。バレー部のかわいかった史織ちゃん、元気にしてるかな、とか考えてた。


そんな感じでちょっと顔とかにやけてた瞬間だったと思う。そこに一人のびっくりするくらいのおっさんが登場した。(え…)って思った。それは見まごうことなくおっさんで、純度100%のおっさんだった。見た目50歳くらいで、頭ちょっと薄くて、小太りのおっさんだった。

ここで受けた衝撃は、ちょっと筆舌に尽くしがたい。なんだろう、アニが女型の巨人だったときを上回る衝撃。信じられないものを見たような表情に僕はなっていたんだと思う。驚愕のあまり立つこともできず、氷のように固まっていた。


(こ、これが、し、しおり…さん…?)

いや、もしかすると急に来れなくなって代わりに上司が来たんだろうか。いやきっとそうだ。そうに違いない。そうだ、きっとそうだ、固まってる場合ではない、史織さんの上司なんだ、きちんと挨拶しなきゃと気を取り直したところで「初めまして、よくそういう反応されるんですけど、"まさふみ"って読むんですよー笑」と言われそこから先の記憶がない。


おっさんに罪はない。むしろ素敵ないい名前だ。悪いのは僕だ。悪いのは先入観で女性だと決めつけていた僕だ。なんならちょっとかわいい小動物系女子だと決めつけていた僕が完全に悪い。

時代は多様化している。性別や名前による先入観や偏見を捨てなければならない。

だから打ち合わせ以降、史織さんとのメールを一切砕けずビジネス文面に徹し始めた自分をまず変えなきゃいけないと思っている。


▼下記ツイートを補足して1,000字でnoteに書いたけど、140字の方が面白い説


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