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マッチングアプリの悲哀

前回書いたnoteの続きでもあるのだが、小説家を志して会社を辞めていった後輩女子と久しぶりに会って蕎麦を食べた帰り、軽くコーヒーを飲みにいった。

「先ほどごちそうになったので、ここは私が!」

と勢いよくこられたので、遠慮なくご馳走になることにした。あとあと思ったが、現在彼女は無職である。無職の後輩にコーヒー奢ってもらう私。完全にミス。何をやっているんだろう。

コーヒーを飲みながら少しプライベートの話をした。彼女は言った。


「実は私、二週間前に彼氏できたんですよ。マッチングアプリで」

マッチングアプリで始まる恋愛は、今やもう当たり前の世界だと改めて感じる。ある程度趣味や収入などが公開されているから好みの相手を見つけやすいのだろうか。ただ二週間前に彼氏できたというわりには、まったく喜びを感じない。もっとこう、全身で喜びを爆発させるものではないだろうか。好きが溢れて止まらない感じにならないだろうか。


「実はもうメール返すのも面倒になってきて、ぜんぜん返してないんですよね」

なんだろう、わかりやすく冷めている。ちょっと早くない?普通だったら一番楽しい時期だったりしない?


「実は彼、東京にいて遠距離だからなかなか会えないんです」

なるほど。距離の問題はある。付き合ったばかりで会えないのは辛い。しかし、会えないのならメールや電話でしか連絡を取れないのだから、それを目一杯楽しむしかないのではないか。次に会うまでの間、そうやって気持ちを高めていくものではないのだろうか。


「正直にいうと、実は会ったことないんですよね、彼」

ちょっと度肝を抜かれた。そんなことあるんだ?

会ったことのない人と付き合うという概念が僕の中に存在していなかった。マッチングアプリとはいえ、相性の合う人と連絡を取り合い、実際に会ってそれから付き合うに発展するものだと思っていた。出会いの入り口がネットになっただけで、やはり会ってみないとわからないことは大いにあると思う。

だから度肝を抜かれた。会う前に先行して付き合うパターンがあるなんて。

むしろ「付き合う前に体の相性を確かめるの大事よね」とか不埒なことをいう者もいるというのに。いや、あれは都市伝説で、今のトレンドは「会う前に付き合う」なのか…? こ、これがマッチングアプリ恋愛…?


しかし彼女を見る限りでは、どう見ても既に冷めている。どう見てもというか、もはや「面倒」だと口に出してさえいる。付き合いたての燃えるような情熱がかけらもない。そして彼女は言った。


「実際、もう別れようかと思ってます」

だろうね。

一度も会わないまま付き合い、一度も会わないまま別れる。これがネット社会がたどり着いた恋愛。僕はこの時、「好きにすればいいと思う」以外の感情を持ち合わせていなかった。


その後彼女はどうなっただろうか。たぶん別れたんだと思う。マッチングアプリで実際に付き合って結婚に至るパターンが増えていると聞いていたけど、僕が直接聞いたのはこれしかないので、だれかもっとハッピーなやつ教えてください。

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