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後輩女子と久々に食事に行ってきた結果

少し前の話になるが、志を遂げるため会社を辞めていった後輩女子からLINEが入った。

「先輩、突然ですけどもしよかったら今日ご飯でもいきませんか?」

正直、驚いた。既婚者になってからというもの、女子からの誘いには縁遠く生きてきた。自慢じゃないが独身時代もずっと縁遠く生きてきた。だから驚いた。だが僕も立場というものがあるので、そう気軽に女性と二人で食事にはいくわけにはいかない。だから言ってやった。

「おっけー! 何時!?!?」

仕事終わりに博多駅で合流した。彼女と会うのは一年ぶりだろうか。見た目は変わらず、元気そうに見えた。小説家を志す彼女は、まずは文章に携わる仕事がしたいと辞めていったのだ。その後どうなったのだろうか。近況が気になる。


博多駅を散策し、軽く蕎麦でもどうかと提案した。彼女は言った。

「ええー! いま私ちょうど蕎麦にハマってるんですよ! チョイスが最高すぎます!!」

おだてるのがうまい。実はキャバ嬢に転職しているんだろうか。

温かい蕎麦にするか、冷たい蕎麦にするかで激論を交わしたのちに、僕は温かいのを、彼女は冷たいのを頼んだ。蕎麦は温かいどころかちょっと熱いまであった。食べながら彼女の話を聞く。

今は実家に帰って毎日小説を書いているそうだ。

「今年はとにかくたくさん書いて、全部の新人賞に応募するんです! 働いてないのでこの一年で勝負します! すべてを文章に捧げます!!!」

熱い。彼女の熱さ、僕の食べている蕎麦の比ではない。

僕も実は小説を書いていることを明かした。書くのは好きだが、なかなか書き続けることは大変であること、筆が進まず苦しむ日々もあることを僕らは共有した。酒は飲まず、淡々と蕎麦を食べながら。

「それにしても先輩も小説を書いているとは! ライバルですね!! でもおかげで燃えてきました!! 頑張りましょうね!!!」

熱い彼女がさらに熱くなった。

「私、重松清に憧れてて。彼の小説を子どもの頃に教科書で読んだんですけど、それからずっと好きで。そんな風に将来は、国語の教科書に載るのが夢なんです…!

やばい、熱すぎる。夢が尊い。僕は将来美人女優とお近づきになりたいが為に小説を書いてることなんて到底言い出せそうにない。

「なるほど。本当に頑張ってるんだね。なんか安心した。ここは僕が出すから、新人賞とったら美味しいもの連れてってくれ」

と奢られ側の罪悪感を吹き飛ばすドヤ顔を放った。蕎麦(700円)で。そもそもそんな賞を取れたらこっちがお祝いするものである。


兎にも角にも、彼女が元気そうで良かった。お互い良い刺激になった。僕もがんばろう。美人女優とお近づきになる為に。目指すは重松清、いや、星野源だ。

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