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「まぁるい日本 国家安全保障(ビジョン2100)」No11~Ⅱ-1:国家安全保障戦略(その2)

■国家安全保障戦略

●防衛構想等

第一は、ユーラシア大陸から脅威を生じさせないことである。
ロシアは、欧州正面と極東正面を結ぶことによって、容易に超大国になることができる。
ロシアは、欧州正面と極東正面との連接が緊密になり、軍事力が強化されればされるほど大国としての存在意義は増し、国際社会での地位を高くする。

現在のロシアの安全保障上の関心は、もう少し拡散している。
ロシアの防衛上の第一の課題は、欧州正面のNATOに対抗する軍事力の維持であり、第二の課題は、南西のイスラム圏正面の安定である。

極東正面の優先順位はそれよりもかなり低くて、辺境統治、国家基盤となる経済発展であり、中国や日本の軍事的影響力を防ぐための最低限の国土防衛能力の維持である。
付け加えれば、経済・産業の低迷、潜在的に高いポテンシャルを持つ人材や科学技術を活かせない社会体制、人口の減少などの国家基盤に根本的な問題を抱えているなかで、防衛態勢をどのように整えていくのかが課題になっている。
ロシアにとって、軍事力を三つの正面に自由に機動させ、展開できることが、最も効率的で望ましく、周辺国にとって、それが最も大きな、抗しがたい脅威になる。

ロシアの防衛の重点は、欧州正面である。
NATO諸国からモスクワまでの距離が近すぎて、奇襲的な攻撃に対して、対応するいとまがない。核兵器の使用を前提に防衛を考えているが、ミサイル防衛(BMD)の精度向上により、核兵器を無力化されることを恐れている。
NATO諸国からモスクワまでの戦略縦深を確保することが、防衛態勢上の大目標である。ベラルーシを親ロシア国としておけば、北と西からウクライナを包囲する態勢をとることができる。ベラルーシからウクライナを自国の影響下においてNATOとの緩衝地帯を拡大するために、エネルギーの供給を停止する他、政治的、経済的、外交的、あらゆる手段で圧力をかけ続ける。

ロシアにとって、欧州正面と中東(南西)正面とを連接させることは、モスクワを包囲する態勢を許すことになるので、黒海からカスピ海の間の地域を支配下に置いて、両正面を完全に分断することが望ましい。
中東(南西)正面への欧米勢力の影響力拡大、イスラム勢力の伸張による南西地域の不安定化、脅威の顕在化に神経を尖らせ、自国の影響力を拡大して、より有利な形で安定化させることを望んでいる。

ソ連時代には、ウラジオストックに軍事基地を構えて太平洋への進出を試みたが、経済的、社会的基盤が伴わなかった。
現在は、経済的、社会的な基盤の整備を優先し、経済的発展に歩調を合わせて軍事的な態勢を整えることで、辺境を統治し、発展を図ろうとしている。
極東連邦管区は日本の約一六倍の面積を持ちながら、人口は約七〇〇万人しかない。元来、人が住んでいなかったうえに、ロシア全体の人口が減少しているのだから、極東開発が国民の福祉向上のための経済政策であろうはずがない。
深刻な辺境統治の問題だと考えて良い。
この地域最大の都市ハバロフスクは、機械工業や木材業などを展開している人口約六〇万人の地域開発拠点。ウラジオストックは、海洋へ進出するための人口約五〇万人の軍事拠点である。
ソ連時代に比べて、国境警備程度の最低限の戦力しか配置できていない辺境防備を強化するための地域開発が目的である。日本の地方都市並みの経済規模しかない地域と貿易を拡大する必要性と利益は日本にはないが、ロシア側には大きい。

人口が減少しているなか、中央アジア諸国と一体的に発展することにより人口増加にともなう経済発展を期待できる。
シベリア鉄道、天然ガスのパイプライン、平行して交通網と情報通信インフラを整備すれば、国土(欧州正面と南西正面と極東正面)の一体化は進む。国内の交通網を整備し、経済的に発展させることによって欧州正面と極東正面との連接が可能になり、より一体感は高まる。
天然ガスなどの天然資源の供給によって日本との経済交流を盛んにし、資本と技術力吸収の窓口としてさらなる開発を図り、太平洋への出口となる地域を安定的に発展させようとしている。

中国との交易を盛んにして地域を活性化する価値は大きい。
極東地域が発展すれば、辺境統治、軍事拠点の維持管理の容易性は増し、中国に対するプレゼンスは大きくなる。
しかし、陸続きの中国から、大量の中国人が流入することには強い警戒心を持っている。

世界経済発展の中心地域となるアジア太平洋へのアクセスを確保し、太平洋への進出口を確保する。
現在の国土を維持し、将来の発展に向けて最低限の基盤を整えることができる。

二〇〇一年に中国、上海で創設された、中露と中央アジア四カ国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン)で構成する上海協力機構(SCO)は、これを強化する枠組みになり得る。
発足当初は安全保障分野が中心であったが、インド、イラン、モンゴル、パキスタンを加え、現在は、経済協力などを含めた総合的な地域協力組織となった。
上海協力機構によって、中央アジアの豊富な地下資源、ロシアの技術とエネルギー資源、中国やインドからの投資を連接し、経済活動において陸続きの経済圏を形成し、自国の影響力を拡大すると同時に、中央アジア諸国へのアメリカの影響力を制限することができる。

中央アジア諸国は、アメリカ資本の急激な進出による簒奪的な開発や経済成長は望んでいない。古き良きのんびりとした旧ソ連時代へのノスタルジアがある。
中国は将来の経済発展に備えて資源エネルギーの獲得を欲している。またアメリカによる中国包囲網を嫌っている。
関係国の思惑は一致する。
経済発展に合わせて、地域の安定を確保するために、国境警備隊を強化し、基地を整備して部隊を配置する。部隊を配置することにより、人を辺境の地に送り込み、街を作り、地域を開発させる。広大な地域に必要とされる部隊の規模は、尋常ではない。
人口増加政策が成功するならば、それと歩調を合わせて、軍の規模が拡大するのは、国家として当然の成り行きである。
広大なユーラシア大陸に配置された部隊を、自由に機動運用できる交通情報通信網が整備されたときには、周辺国へ与える軍事的影響力(脅威)は、対応できないほどに大きくなる。

沿海州の経済的発展は、日本の安全保障上好ましくない。
もし日本経済が同地域への進出を図るのであれば、米国と協調して進出することが望ましい。しかし、米国が関心を示すほど価値あるものはほとんどない。
隙間産業のような小さな企業の利益になるものはあるが、それはロシアにとって有益であっても、日本の国益のプラスにはならない。
天然ガスの供給をロシアに求める危険性は、ウクライナ、EUとロシアとの関係を見れば一目瞭然である。
ロシアは、日本への資源エネルギーの供給と、大企業を対象とした資源エネルギー産業の活性化、中小企業を対象とした隙間産業の利益をもって、日本を誘う。

北海道の防衛力の弱体化は、ユーラシアの脅威に対する認識という長期的、地政学的な視点から、日本と米国及びEUとの一体感を損ね、信頼関係を失う要因になる。
我が国は、極東ロシア軍に対抗する確固たる戦力を持ち、NATOと連携を保ってリムランド国からハートランドへの外線作戦をとれる態勢を確保し続けなくてはならない。
日本の防衛力が弱くなればなるほど、欧州から中国への武器売却などの軍事的な肩入れは、大きくなる。それは、中国の日本に対する脅威が増加することを意味している。
逆に、日本の防衛力が強くなれば、欧州から中国への武器売却の動機はいささかなりとも減少する。
日本の中国に対する脅威意識も減少して、安定化する。

北海道と沿海州地域との経済交流発展を望む声が強いが、沿海州の経済的開発、発展による軍事的な基盤(策源地)の強化と戦略的交通網の強化は、西欧正面と極東正面の連携を強化し、ロシアの内線作戦を容易にする。

長期的な視点で見れば、極東の軍事小国である日本だけで、経済が発展したユーラシアの軍事大国ロシアと対等の関係を築くことは難しい。
ロシアとの交流拡大は、北海道の経済的発展と防衛力強化を並行的に行なうことが条件である。
EUとロシア、ロシアと中国との軍事バランスを見ながら、防衛力整備を進めなくてはならない。 


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