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企業価値1兆4千億円!植物性ミルクブランド「Oatly」が取った時代を逆行するマーケティング戦略とは

今世界で最もホットな植物性食品ブランドと言えば「Oatly(オートリー)」だろう。

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1994年にスウェーデンで誕生したオーツミルクブランド「オートリー」。
それから18年。
今年の5月20日、オートリーはナスダックに初値22ドル(公開価格比30%高)で上場した。企業価値は約130億ドル(約1兆4千億円)と言われている。

世界が注目するブランド「オートリー」

女優のナタリー・ポートマンさんなど多くの著名人もオートリーに出資しており、まさに世界が注目するブランド「オートリー」

植物性ミルクのほか、ヴィーガンアイスなど多種多様な植物性食品を販売している。

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ボストンに住んでいた頃、展示会でオーツミルクを飲んだ経験しかなく、なんであの頃にオートリーに注目していなかったのかと悔やまれる。
(日本で輸入している会社があるものの、人気過ぎて欠品しているそう。)

1994年にスウェーデンで設立された、小さなブランドOatlyがここまで成長した理由は何だったのか?
疑問に思って調べたところ、web広告やインフルエンサーへの配布など、多くの企業が行っているものとは逆行する、驚くべき施策を打っていたことが気付き、とても面白かったので今回久しぶりにnoteを書くことにした。

商品の魅力が最大限に引き出せる場所で、専門家からレコメンドをしてもらうプロモーション

スターバックスでもオーツミルクやアーモンドミルクが提供されるなど、今でこそ市民権を得てきた植物性ミルク。

しかし20年前、オーツ麦からミルクが作れるという事実が全く知られていない状況で、しかも普通の牛乳と比較して、高価なオーツミルクをいかにして人々に手に取らせるか?という難題にオートリーは取り組んでいた。

そのような状況で、彼らが取ったのは「専門家からレコメンドしてもらう」という戦略であった。

オートリーの商品の魅力は、牛乳のようにクリーミーで、コーヒーによく合うこと。
また、アーモンドミルクなど他の植物性ミルクと比較して泡立ちも良いため、ラテにピッタリ。

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「オートミルクはコーヒーと一緒に飲んでもらうことで、魅力を最大限に感じられる。」
こう考えたオートリーは、自社商品の魅力が最大限に引き出せる場所=コーヒーショップでプロモーションを行うことを決意する。

オーツミルクという得体の知れない商品。
未知なる商品を好きになってもらえるか否かは1回目が勝負である。

例えば、「ヴィーガン食に抵抗がある」という人は、初めて食べたヴィーガン食が、茶色くてパサパサで美味しくないものだったからではないだろうか?
初めに付いてしまったイメージを後から取り除くことはとても難しい。

だからこそ、オートリーは「最良の状態でオートミルクを試してもらえる場所=コーヒーショップ」をプロモーションの場にチョイスしたのだ。

顧客と深いコミュニケーションを取るため、敢えて小さなコーヒーショップで提供

「コーヒーショップで提供する」と言っても、オートリーが向かった先はスターバックスではなく、チェーン店であるスターバックスとは真逆の、小さなコーヒーショップであった。

一番最初にオートリーの商品を扱ったのは、コーヒー愛好家の間で人気の、LAのブティックコーヒーショップ「Intelligentsia」と言われている。

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「コーヒーに合わせるものは牛乳しかない」という固定概念がある中で、もしバリスタが「アーモンドミルク、ソイミルク、オーツミルクどれにしますか?」と尋ねてきたら、どうするか?

おそらくこう答えるだろう。
「よく分からないのですが、あなたのオススメは何ですか?」と。

そして、コーヒーの専門家であるバリスタはこのように答える。
「濃厚な味わいのオーツミルクがオススメです。しかも身体に良い。」
信頼するバリスタがレコメンドしたものであれば、試そうという気になるだろう。

そしてそれがすごく美味しくて、家でも飲めると知ったら。
購入につながることは間違いない。

これは、絶え間なく人が訪れ、効率的なオペレーションを目指すがゆえに、お客様とのコミュニケーションが生まれにくいチェーン店では、きっと成り立たなかっただろう。

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バリスタと強固な連携を築くことに注力したオートリー

このような戦略のもと、オートリーは先ず10軒ほどのコーヒーショップを選択し、バリスタに無料サンプルを渡していった。

コーヒー愛好家にとって究極のインフルエンサーであるバリスタやコーヒーショップのオーナーと強固な連携を築くことに注力したオートリー。

フォロワー数が多い人や有名タレントではなく、ターゲットが絶大な信頼をよせる専門家をインフルエンサーにする。

オートリーの取ったこの戦略は、有名人ではなく地元のヨガインストラクター、トレーナー、アスリートなどを「アンバサダー」としてブランドアイコンに起用した「ルルレモン」の戦略とも似ている。

こうした戦略の下、オートリーは2017年末までにアメリカにおいて、自社商品を扱ってもらうカフェを650軒までに拡大した。

ちなみにバリスタを大切にしているオートリー。バリスタをフューチャーする専用のInstagramアカウントも存在している。

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商品特徴を訴えないユーモアな広告

オートリーのユニークなマーケティング戦略は広告にも見られる。

オートリーが実施するキャンペーンは、屋外の看板や、バス・地下鉄のプラットフォームなど、低コストで交通量の多い媒体に焦点を当てていることが多い。

しかも広告の内容が一風変わっている。
自社商品の魅力・特徴をこれでもか!というくらい記載するのが通常の広告。
しかし、オートリーの広告は違う。例えばこんな感じ。

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「この広告読んだ?呼んだなら成功!」
何も自社商品について語っていないのである。笑
オートリーのメンバーは言う。
「広告とは消費者の生活を邪魔するもの。そうであれば消費者を笑わせたり、興味をそそらせるものでなければいけない。」と。

また、「乳製品に代わるおいしい植物ベースの代替品で地球を支援する」というブランドメッセージを伝えるためのコンテンツも実にユニークである。

インスタでは、「パッケージを使って植物を育てよう!」というメッセージを発信したり、

YouTubeではブランドメッセージを伝えるコンテンツを発信している。

例えば最近行われた「HelpDad」キャンペーン。

夜中に牛乳を買ってくるお父さんに対して、息子が植物性ミルクに変えるよう促す、というシンプルな動画。
若者と異なり、植物性食品に抵抗がある親世代の行動変容を促すため、ユーモラスでありながら挑発的なこの動画を、10代の若者に向けて発信した。

あるいは、OatlyのCEOであるToniPeterssonが自ら歌った、こちらの動画広告。

これまた何も自社商品については語っていないのだが、「no cow」というメッセージを一度耳にしたら忘れられないメロディと共に、遊び心を交えながら伝えている。

独自のマーケティング戦略で成長し続けるオートリー

web広告、インフルエンサー配布、商品の機能的価値をひたすら伝えるコンテンツ、などとは真逆のマーケティング戦略をとるオートリー。

世界で植物性食品の需要が高まっていることも相まって、今後さらなる成長を遂げることは間違いないだろう。

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