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ペルシャの風よ、日本で暮らすの人々の心に優しく届いて。 「第4回難民・移民フェス」レポート

コスモポリタンで人に優しい世界を願う、半年に一度の祭典

安全な生活を求めて海外から日本に逃れてきた、多様なルーツを持つ人々を支援する「難民・移民フェス」も、今回で四度目の開催となりました。2023年11月4日(土)、柏の宮公園(東京都杉並区)に集ったのは、30組以上の出店者と出演者。

アジア・アフリカ・中近東・南米の家庭料理やお菓子、飲み物、雑貨・手芸品、服飾・装飾品、ちょっと変わり種のヘアアレンジ、書籍販売、公式グッズ、はたまた無料のお茶で一服できるチャイハネコーナーなど、毎回、多彩な出店で来場者を楽しませてくれます。

当日は蒼穹の秋晴れに恵まれ、広々とした柏の宮公園のフェス会場に約4,500人(主催者発表)の来場者が訪れた

午前の部のテント紹介では、サヘル・ローズさんがマイクを握り、進行役を務めました。直前まで打ち合わせも台本もなしに、ぶっつけ本番で臨んだ司会ですが……結果は大成功、大いに盛り上がりました! 数々の土壇場をくぐり抜けてきた、彼女だからこそできた“芸当”ですが、「むしろ自由でいい!」と満面の笑顔で逆境を楽しみに変えてしまう、なんとも魔訶不思議な才能の持ち主ですね、恐るべし(笑)。

各テントの代表者がステージに上がり、自慢の品々を手に商品説明を繰り広げていきますが、長蛇の列ができたテントでは、開会早々、すでに完売御礼のうれしい悲鳴もあったのだとか。屋台あり、歌ありでお祭りのように賑わうイベントとはいえ、難民・移民問題に対し、日本の人々の間で、いかに関心が高まっているかがうかがえます。

テント紹介にあたり、開会の喜びを語り合うサヘルさんと、フェス実行委員の金井真紀さん(文筆家・イラストレーター/写真右)

この後、難民・移民の人々が訴えるメッセージを歌に託したラップや独唱、ゴスペルのほか、メディア評論家の荻上チキ氏がパーソナリティを務める、TBSラジオ番組「荻上チキ・Session」の公開収録も披露されました。


国家という“投網”を脱ぐ——偏見や先入観の鎖を断ち切るために

第4回での出店に際し、サヘルさんが選んだネーミングは「さへる畑 ~ペルシャの風~」。そして、その意図とは――ご本人から発せられた言葉に勝るメッセージはないでしょう。どうか皆さんも、彼女の切実な願いを受け取ってみてください。

「ペルシャの風」というタイトルにこめたサヘルの想い
 
今の世界情勢を見た時にイランが置かれている状態は正直辛いものがあります。世界共通として言えることですが、国同士の争いで苦しむのはいつだって一般市民。国民が自ら望んでいるものではないのに、国家の意向に加担しているように捉えられてしまう。そういった結果が私の母国で生きる人々の生活を奪っていく。
 
戦争というものはあらゆる国々の利権によって分断をしていきます。イランは長年、経済制裁等で苦しんでいるのは市民。今回のフェスにはペルシャ(イラン)の人々が懸命に作っている手作りのアクセサリーやペルシャ国民がこよなく愛するお菓子、デザートなどを出品します。店を構えることができずに路上で懸命に売っている人々から9月に母が支援のために買ってきました。
 
ぜひ、報道では耳にすることのできない、本来の『イラン』に触れてみてほしい。美しいペルシャ(イラン)を、ぜひ五感で感じていただきたく、このタイトルにしました。本当のペルシャにそして人々にふれていただけましたら幸いです。
 
サヘル・ローズ
 
 
※「ペルシャ国民」は正式な国名を表したものではなく、“ペルシャ文化を受け継ぐ人々”というサヘルさんの想いを表現しています

それでは、今回の出品物をご紹介しましょう。

ゾロアスター教のシンボルを象った、壁掛け用のインテリア装飾品
  • ペルシャ風アクセサリー・雑貨(指輪、ピアス、ネックレス、ブローチ、タイル、小箱)

  • ペルシャ柄スカーフ

  • ビビグルさんのドーナツ

  • わかなさんの手作り「ちいさへこ」(お手製のフェルト人形)

サヘルさんのお母様が9月に一時帰国された際に、店舗を持てずにイランの路上で販売していた人々から、アクセサリーや伝統工芸品、スカーフなどを買い入れました。かつて豊かだったイランも、現在は欧米諸国から受け続ける経済制裁により、生活が困窮した人々の姿が後を絶ちません。

これらの売上は、再びイランにある病院の患者さんたちへ還元されます。

長い歴史と伝統を持つペルシャ風の装飾が美しい、工芸品やスカーフ、アクセサリー、雑貨
ビビグルさん直伝のレシピで作ったアフガニスタンのドーナツ(左下)。フェスの翌日11月5日には、長男のフルート奏者、ジャムシッドさんのミニコンサートが恵泉女学園大学(東京都多摩市)で開かれた
ビビグルお母さんのご協力を得て、フェスの前日に販売用のドーナツを準備する調理班。今回、「生活学館足立校」に調理場のご提供をいただいた

ビビグルさん一家が来日するまでの経緯については、こちらをご覧ください。


Wさんが愛を込めて手作りした「さへこ人形」たち

さて、ここで今回初登場の目玉商品である、「さへこ人形」の誕生秘話を披露しましょう。ちなみに「サヘ子」とは、マネージャーのHさんが、親しみを込めてサヘルさんを呼ぶ時のニックネーム。

仕事の予定とバッティングしてしまい、第3回フェス(東京都練馬区で開催)に来られなかったサヘルさんのためにも、「代わりに分身のお人形を店頭に飾って、少しでも賑やかになれば」と、思い立ったのが発端。画家出身で、約20年にわたり洋裁や手芸もたしなみ、「何かしら作っていれば幸せ」という、Wさんならではのアイディアでした。

「サヘルさんの優しさや、時折見せる少女のような可愛らしさを表現できたら」と、フェルト製の人形に込めた願いが通じたのか、実はサヘルさん自身も、この「さへこ人形」を“私の分身”と呼んで憚らないほどのお気に入り。

そして当日、Wさんがかねて「さへこ人形」を売る約束を交わしていたトルコ出身の女の子へ、無事に手渡すことができた喜びも語ってくださいました。母親を手伝い、一日中、会場を回りながらスイーツを売り歩いていた彼女こそ、
「『ちいさへこ』の人形を一番持ってもらいたかった子です」。


支援活動を陰で支える、「さへる畑」の畑メンたち

日頃から応援してくださっているファンの方々へのファンサービスも、サヘルさんが大切にしたい役割の一つです。それは、一期一会の気持ちで出会う人とのつながりや想いが、彼女の表現や支援の大きな原動力になっているから。しかし当日フェスの会場では、サヘルさんが一歩足を踏み出せば、必ずどなたかに声をかけられ、なかなか前へ進めない……という不測の事態に(苦笑)。

来場したファンの方からの写真撮影に応じるサヘルさん

そんな時、畑メンはファンサを邪魔しないように、自らの持ち場で任されたタスクを、粛々とこなします。彼女のあまりにエネルギッシュな活動ぶりに、半ば唖然としながら(笑)、心の底では感嘆と敬意をもって、そっと静かに見守っている――。サヘルさんが発信したメッセージに共感し、それを形にする一助になることに、密かな喜びを感じつつ、黒子に徹して地道な支援活動を続けるのが、多くの畑メンのあるあるな姿です(謙虚デスネ!)。

ところで、サヘルさんの隠れた別名は、「マグロのさっちゃん」。テレビや映画・舞台・ドラマの出演、ラジオのパーソナリティといった芸能活動から、講演・イベントでの登壇、支援活動、ファンサービス等々、常に目まぐるしく奔走している彼女の様子を見た畑メンたちが、“まるで泳ぎ出したら止まらないマグロの勢い”になぞらえて、いつもつぶやいているネーミングです。サヘルさん、たまには適当に休んでくださいよぉ~。

「みんな、お疲れさまでした♡」from Sahel


一時的なイベントではなく、粘り強い支援の輪につなげたい

およそ半年ごとのスパンで開催されるようになった、難民・移民フェス。当フェスは、日本で暮らす難民・移民の方々にとって、数少ない祭典のイベントとして思い切り楽しんでいただくと同時に、日本で持続可能な支援の輪をさらに広げていくことを目指している、息の長い、粘り強い市民運動でもあります。

今回、「さへる畑」の出店で得られた売上の寄付先は、主催者のフェス実行委員会、ビビグルさんご一家、そしてサヘルさんが訪問したイランの小児病棟や車椅子の方々に向けて、それぞれ提供することになっています。

サヘルさんが支援しているイランの小児病院にて
今年9月にサヘルさんと近藤聖子さんが「از ژاپن(from Japan)」として共同で寄贈した、10台分の車椅子。今回のフェスで集まった寄付金から、さらに今後、追加の寄贈を予定している

本レポートは以上になりますが、番外編の特別インタビュー(映像&テキスト)やイランからの現地報告についても、今後、続々とアップ予定です。乞うご期待!


【関連情報】

◆「第4回難民・移民フェス」全体の様子については、下記をご覧ください。


◆社会福祉法人つくしの郷/一般社団法人つくしの郷

◆生活学館足立校
「つくしの郷」が運営する、東京都指定の就労移行支援事業所
〒120-0015 東京都足足立区足立3-7-16 グリーンパーク第5五反野101号
TEL:03-6807-2191
https://twitter.com/seikatsugakkan
https://www.instagram.com/seikatsugakkan/

◆A mano a mano 北千住 ジェラートカフェ あまーのあまーの
「つくしの郷」が運営する、就労困難者が働けるインクルーシブなジェラートカフェ
〒120-0021 東京都足立区日ノ出町38-16
TEL:03-6806-2307
https://twitter.com/Amanoamanosenju
https://www.instagram.com/amano.amano.senju/


【関連作品】

◆映画『マイスモールランド』 川和田恵真監督/2022年公開
サヘル・ローズさんがロナヒ役で出演する、埼玉県川口市に住むクルド人難民の一家を描いた作品です。


◆詩の朗読フィルム『リスト:彼らが手にしていたもの(原題:What They Took With Them: a List)』
毎年6月20日は、難民の保護と支援に対し、世界的な関心を高めてもらおうと制定された「世界難民の日」。この日のために国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が制作した、詩の朗読フィルムの日本語版では、10人のアーティストが集い、サヘル・ローズさんもその一人として選ばれました。


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