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wellbeingとは何か。続々編。

なんと丸2年ぶりのnote...!!
その間もずーっとwellbeingのことを調べたり、考えたり、、講演でお話しする機会にも恵まれて、以前よりも、メタ認知できるようになってきました。そこで、今回、現状認識をあらためて綴ってみることにします。(ここでは、Well-Beingを簡便にwellbeingとさせていただきます。)

●結局、wellbeingって何??

先に結論を述べておくと、
wellbeingとは、【 It can mean anything.
と第一人者も言うくらい...広範で曖昧な概念と見ておくのが適切です。

『より良く、ここにいること。』『幸せ、健康、厚生、良好な状態。』
日本語に置き換えると、ちょっとニュアンスがズレてしまいそうにもなる、大胆かつ繊細な言葉です。

加えて、以前の記事の繰り返しになりますが、
主語 】も重要です。
「私の」wellbeing、「私たちの」wellbeing、「社会の」wellbeing、「世界の」wellbeing、という捉え方があっていい。
むしろ、それによって使用すべき指標も変わることには要注意です。

●WHOやOECDが示すwellbeingとは?

よくwellbeingの定義が、WHOのhealthの定義と混同されていますが、それは誤りです。2021年にWHOは、wellbeingを以下のように定義しています。

Well-being is a positive state experienced by individuals and societies. Similar to health, it is a resource for daily life and is determined by social, economic and environmental conditions.

wellbeingとは、個人と社会が経験する前向きな状態です。健康と同様に、それは日常生活のための資源であり、社会的、経済的、環境的条件によって決まります。ー (WHO,2021)

個人だけでなく「社会」が経験しうる前向きな状態であり、「wellbeing」を「資源」と表現しています。

OECDによると、wellbeingは、幸福度に関する最も包括的な概念であり、

①一時的な感情や心の状態を示す感情としての幸福感(Happiness)
②日常生活全般に関する評価としての生活満足度(Life Satisfaction)
③人生の意味や目的としての幸福を示すエウダイモニア (Eudaimonia)

の3つを含んでいるとされています。 (OECD,2013)

なお、OECDのwellbeingレポート(How’s Life? 2020)における日本のスコアの低さは度々指摘されますが、日本には③に関する公的統計がないので、③の視点は含まれていません。

OECDは、「国家の」wellbeingを評価する視点から策定されているので、そのフレークワークはとても広範です。11の下位尺度から構成されています。

ちなみに、日本はこんな感じです。

詳しくは、以下のHow's Life? 2020 Measuring Well-beingをご覧ください。

●乱立する指標…ギャラップ社のwellbeing指標とは?

wellbeingがもやもやする理由の1つは、定義がはっきりしないので、指標もはっきりしない点です。

さまざまな心理学者や調査会社、団体、国家がwellbeingの指標を策定しています。
どれを参照したらいいのだろう?と思ったことのある読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。私もそのうちの一人です。

それらを外観したものが、Harvard School of Public Healthに掲載されていました。指標によって、設問の偏りがあることが分かります。

調査会社のGallup社は、Life Satisfactionの設問のみでwellbeingを測るというアッサリさも見せていますが、大人数に対して行う世界調査においては、有効かと思います。また、Gallup社は、5つの共通した要素が含まれていると結論づけて、多元的なwellbeingを簡潔に表現しています。

ウェルビーイングを構成する5つの要素「Gallup社」

  • Career Wellbeing

  • Social Wellbeing

  • Financial Wellbeing

  • Physical Wellbeing

  • Community Wellbeing

これを見て、Psychological (心理的)wellbeingはないの?
とお思いになりませんか?その理由は分からないのですが、、ちょっとPsychological wellbeingにも触れておきたいと思います。

●Psychological (心理的)wellbeingとは?

Psychological wellbeingは、多くの研究の中で、主観的wellbeingとほぼ同義として扱われています。

Psychological wellbeing・主観的wellbeingの構造として、認知的側面(生活・人生に対する満足)と感情的側面(快感情・不快感情)の2つの領域があることは多くの研究者の一致した見解になっているようです。(Diener, 1999、Larson, 1978)

ある程度の時間的安定性と状況に対する一貫性を持つと考えられており、何らかの介入をしたとしてもすぐにスコアに現れるわけではありません。

以前に、マーティン・セリグマンのPERMAモデルはご紹介したので、今回は、Ryff(1989)の心理的wellbeing尺度についてご紹介します。
42項目から構成され、6領域、各7項目の質問が設定されています。

  • Autonomy(自律性)

  • Environmental mastery(環境制御力)

  • Personal growth(人格的成長)

  • Positive relations with others(積極的な他者関係)

  • Purpose in life(人生における目的)

  • Self-acceptance(自己受容)

●内閣府のwellbeing指標とは?

日本でも、国家・自治体レベルで、独自のwellbeing指標を策定する動きが見られています。ただ、全て異なる独自の指標となっていることで、比較検討ができないという問題点があります。ただし、各コミュニティが「自分たちのwellbeing」を「自分たちで定義する、自分たちで測る」という試みをしている姿はとても素晴らしいとも言えます。

なお、内閣府は、満足度・生活の質を表す指標群ーwellbeingダッシュボードを公表しています。以下のように、全体的な生活満足度を「主観満足度」と「客観指標群」にて評価しています。
ただし、「市民の政治参画」という他国の指標に入っている項目がないことや、主観的評価に偏りがちであることに対する批判もあるようです。

さらに、都道府県別のwellbeingダッシュボードを公表しています。

●私たちのwellbeingという視点

ここまでの内容でお分かりのように、
wellbeingは決して個人のこころの状態を示す、ようなものではないのですね。

コミュニティ、つまり…会社の組織、チーム、市区町村、国など、『人とのつながりが織りなす場所』で、きっと大切になってくる視点なのです。

私たちのパーパスは何か?
ゴールイメージ、成功の定義は何か?

それらと同じくらい、
私たちのwellbeingとは何か?
私たちはいまwellbeingなのか?という視点。
これからの社会では、より重要性を増してくるのではないでしょうか。

●タイ北部のチェンライで考えたwellbeing

ここからは、こぼれ話ですが…
先日タイ北部にあるチェンライで100名ほどの現地住民の方々に、肝臓がんスクリーニングのための腹部エコーをNPOのチャリティー活動として提供してきました。

その際に、Life Satisfaction調査も一緒にやったのですが、スコアがめちゃくちゃ良い!

チェンライでの労働・収入・生活環境・生活習慣・思想・宗教がきっと関わっているはずなので、もう少し探究してみたいと思いますが、
スコアがよい人に、fatty liverが多いような?

こちらも分析はこれからですが、私個人としては、医療が本質的に貢献したいのは、個人や組織、国家のwellbeingであると思うのですね。
「この抗がん剤を使ったら、寿命が3ヶ月延伸しました。」
と言っても、その患者さんは、その3ヶ月、wellbeingだったのでしょうか。

それから、もっとこぼれ話ですが…
タイでは川魚や豚肉を生で食べる習慣があるエリアがあるのですが、
生魚や生肉の中にいる寄生虫によって感染症に罹患し、肝炎に至るケースもあるのだそうです。
それをスクリーニング調査で明らかにし、公衆衛生的指導によって、罹患を減らせたというエピソードを聞かせていただきました。

これってまさに上流からの対策ですよね!
「肝臓に異常あるなら病院にいきましょう。」ではなくて、「なぜ肝臓の異常が多いのか?」という上流から解明を進めて、対策を打った。

産業保健も一緒。
「メンタル不調があるなら病院にいきましょう。」ではなくて、「なぜメンタル不調が多いのか?」を解明するスタンスを持って、まずはよくコミュニティーの状態を知ることに真摯でありたい。

コミュニティのwellbeingも、主観的wellbeingも作ることができると信じているので、これからもこのテーマと楽しく向き合っていきたいと思います。

最後までお読みくださりありがとうございました!
皆さんの毎日に少しでも笑顔がありますように。

参考文献:
森田ら,2014「自治体における幸福度指標の課題と方向性―指標作成アプローチと政策の改善・立案への活用方策」
伊藤・相良ら,2003「主観的幸福感尺度の作成と信頼性・妥当性の検討」
中坪ら,2021「幸福感尺度使用の現状と今後の展望」
高尾ら,2018「地域政策と幸福度の因果関係モデルの構築-地域の政策評価への幸福度指標の活用可能性-」

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