見出し画像

脱水はパフォーマンスを下げるのか?

何気なく当たり前にしている水分補給。
「ただ喉が渇いたから」「脱水は良くないから」という理由があるかと思います。概ね、水分補給は身体に対してポジティブに働きます。ランニングなどの運動時は特に。

けれども、ちょっと落ち着いて考えてみましょう。時々「体重が1kg落ちると、マラソンが3分早くなる」という噂も耳にしませんか。本当だとしたら、脱水状態になって軽くした方が早く走れるのではと思ったり。う〜ん、果たして脱水は一概に良くないのだろうか。

「脱水が2%以上になると…」

日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」には以下のように記しています。

発汗によって脱水が体重の2%以上になると、運動能力や競技成績への影響が大きくなります

日本スポーツ協会,『スポーツ活動中の熱中症ガイドブック』

脱水や水分補給についてのコラムを読むと、多くはこの「脱水率2%」を超えないように水分補給をしようと伝えています。体重70kgの方であれば、走り終えた時に68.6kg未満だと悪影響が生じているかもしれないということになる。しかし、これは夏場などの暑い日を想定した資料であるので、マラソンが行われる冬場でも同じように考えて良いのでしょうか?

アメリカスポーツ医学会(ACSM)のポジションステートメントを読むと少し違う表現をしていました。

Although there is complexity and individuality in the response to dehydration, fluid deficits of >2% BW can compromise cognitive function and aerobic exercise performances, particularly in hot weather.

→ 脱水症状に対する反応は複雑で個人差がありますが、体重の2%を超える体液不足は、特に暑い季節に認知機能や有酸素運動のパフォーマンスを低下させる可能性があります。

Thomas DT, Erdman KA, Burke LM. Position of the Academy of Nutrition and Dietetics, Dietitians of Canada, and the American College of Sports Medicine: Nutrition and Athletic Performance [published correction appears in J Acad Nutr Diet. 2017 Jan;117(1):146]. J Acad Nutr Diet. 2016;116(3):501-528.

更に

Decrements in the performance of anaerobic or high-intensity activities, sport specific technical skills, and aerobic exercise in a cool environment are more commonly seen when 3% to 5% of BW is lost due to dehydration.

→無酸素運動や高強度の活動、スポーツ特有の技術的スキル、涼しい環境での有酸素運動などのパフォーマンス低下は、脱水により体重の3~5%が失われるとより一般的に見られます。

Thomas DT, Erdman KA, Burke LM. Position of the Academy of Nutrition and Dietetics, Dietitians of Canada, and the American College of Sports Medicine: Nutrition and Athletic Performance [published correction appears in J Acad Nutr Diet. 2017 Jan;117(1):146]. J Acad Nutr Diet. 2016;116(3):501-528.

マラソンは一般的に寒い晩秋〜春先に開催されます。
その時期のマラソンであれば、脱水率3%までは大丈夫かも?と少し余裕を持って考えられそうです。先ほどと同じ70kgの方で考えると、走った後が67.9kgということになりますね。

※基本的にランニング直後の体重減少量のほとんどは「水分」として捉えられます。残念ながら、脂肪がストンと減った訳ではないのお間違いないように。

走力は徐々に低下しそう

では、脱水率3%を超えなければ、マラソンの記録に「全く」影響はないのだろうか?もしくは、3%はあくまで統計的に有意な差の境で、それよりも脱水が少ないほど影響を軽減できるのだろうか?

その答えの参考になりうる資料として、サミュエルらは2003年、運動能力と脱水率は比例関係にあることを示しています。

このような比例関係にあると脱水率3%未満でも多少の影響はあるように思えます。しかし、その影響が意味のあるもかどうか、許容するかどうか考えることも必要かと思います。

過度に注意し過ぎない

ACSMは涼しい環境であれば、マラソンのような有酸素パフォーマンスは脱水率3〜5%になると悪影響を及ぼすと示していました。そこから考えると、よく用いられている「脱水率2%」という基準は、涼しいマラソン大会では少し厳しい設定になるかもしれません。

ただ、3%までは大丈夫だからといって影響が全くないとも言えなさそう。比例関係を示した図を見ても、「少しでも(理論上の)走力低下を阻止したい」場合は脱水率を2%、それ未満に抑えた方が良いでしょう。

どこまで許容するのかを決めるのは難しい判断だが、私は”そこまで”気を付けることもないのではとお伝えしたい。水分補給は取り方によっては他の問題を生じかねないからである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?