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創作怪談 弐 『ハミガミサマ』

学校で動物って飼ってるじゃないですか?
俺の小学校の頃の飼育小屋でウサギを飼っていてクラスのみんなで可愛がってたんですよ。
あれね、単に動物をペットみたいに飼うのが目的じゃなくて、動物の飼育を通して子供たちに命の大切さを学ばせるってのも目的の一つにあるらしいの知ってました?

でも学校に不審者が侵入して動物を殺すって事件ありますよね。

実は俺の学校でもそういうことがあったんです。
ウサギ、5匹飼ってましたけど全部殺されました。
朝学校の飼育小屋に行ったら地面が血だらけになってて、みんな動かなくなってました。
可愛がってたからすごく辛かったんです。

けどね俺、犯人知ってるんですよ。
知ってるっていうか「俺が間接的に犯人になった」んです。

俺が小学校5年生の頃、江藤っていう教師がいたんです。
そいつがとんでもないやつでした。
気に入らない生徒がいたらストレス発散に八つ当たりするような教師で、宿題とかの忘れ物なんかしようもんなら胸倉つかんで投げ飛ばすっていう当時でも問題になるような暴力教師でした。
クラスのみんなも江藤のことを嫌ってたっていうか怖がってて、俺結構真面目でクラス委員やってたから「何とかしなきゃって思って」校長に直接言ったこともあったんです。
でも校長は評判なんか気にしてなんも動いてくれなかった。
それで校長のやつがとりあえず中途半端に江藤に注意したもんだから「告げ口しやがって!」って俺への風当たりが強くなった。
いや、強くなったなんて話じゃなかった。
授業中に少しでも気に入らないと俺を怒鳴る殴るなんて当たり前だったし、体育の時間にわざと足ひっかけられて転んで傷だらけにもなったし、給食ぶちまけられるなんてこともあった。
クラスのみんなもどうにかしないとって思ってたんだろうけど、みんな江藤が怖かったんだ。
「何かしたら次は自分がああなるんだ」って思って誰も助けてくれなかった。

そんな生活が一か月は続いた。
てか、よく一か月も耐えられたなって思うけど、もう限界でした。
親にも他の先生にも相談したかったけど、そんなことしたら今度はもっと酷い目に遭うと思ってできなかった。

でも俺には一つだけ頼みの綱が残ってたんですよ。
「土着信仰」ってわかりますよね?
そう、神社とかの仏閣に祀られてる神様とかじゃなくて、古来からその土地に棲みついている神様みたいな存在のことです。
俺が通っていた小学校の土地にも棲みついてるっていう伝説があったんです。
小さい頃に死んだおばあちゃんが教えてくれたんです。

その神様「ハミガミサマ」っていうんです。

正直嘘っぱちだと思ってたんですけど、その時の俺は藁にもすがる思いでした。
江藤のやつがどうにかできるならって、そう思って俺グランドの近くにあった雑木林に一人で入っていったんです。
何でそこに入ればいいと思ったかなんてわからなかったけど、なんか神様が住んでそうな雰囲気だったからですね。
だいたい雑木林の真ん中まで来て、俺叫んだんです。

「ハミガミサマ、江藤を殺してください」

って。
あの時アニメとかドラマみたいに一斉に鳥が飛び立っていったのを覚えてます。
こんなことで江藤のやつがいなくなるのかって叫んだあとで思ったんですけど、でも結果的にそれが「正解」だったんです。

次の日も江藤からのひどい仕打ちを受けて、いつもみたいに夕方六時まで教室で一人で立たされていました。
季節は冬でもうその時間には真っ暗です。
一応教室は電気ついてはいたんですけどね、寒いし怖いしで本当に辛かった。
で、江藤のやつもそろそろ帰してやるかって思って教室に来るんですよね。

「おい○○、そろそろ反省したか?もう俺に歯向かうんじゃないぞー!」

いつものせせら笑う声が廊下から響いてきました。
「反省してる」ってこっちが言っても許す気なんてないクセにって。
廊下に江藤の姿が見えた瞬間でした。

「何か」が急に現れて江藤のやつに覆いかぶさりました。

「なにするんだ! やめろ! 離せ!!」

何かともみ合ってるようだったんだけど、抵抗する声はすぐに悲鳴に変わった。

「痛い! 痛い! やめろ! 離せ! 俺が、俺が何をしたっていうんだ……!! ……、がっ、あっ……、あ……」

江藤が声を発しなくなっていきました。
それで「ああ、江藤のやつ死んだんだ」って思いました。
何があったかわからなくて怖かったけど、そんなことよりも江藤のやつが酷い目に遭ったんだって思うとなんだかそっちの方が勝っちゃって、何があったのか気になって顔を出して廊下を見たんです。

一瞬で後悔しました。

原始人が着るようなぼろ衣を着た髪のないやつが、江藤に覆いかぶさってました。
それで「そいつ」がこっちに向けて顔を上げたんです。
教室の明かりが「そいつ」の顔を照らしました。

男か女かもわからないんですけど、目の大きさが左右で違ってて、鼻は削がれたみたいに無くなってる。
そして口だけが異常に小さくて口元とぼろ衣の胸元が血で真っ赤に汚れているんです。
それで俺の方を見て、その小さい口の端をクって上げて笑いながら、立ち上がって動かなくなった江藤をずるずる引きずっていって廊下の向こうに消えていきました。

そこでようやく我に返ってランドセルをひっつかんで急いで下校しました。
親には遊んでたって言ってごまかしたから叱られたけど、そんなことはもうどうでもよかった。
次の日、そのことがあまりにも気になったから朝も7時ぐらいに学校に行ったんだけど、大騒ぎになってました。

飼育小屋のウサギが全部殺されてたんです。
少しだけ見たけど地面は血だらけだったし、ウサギの死体の首元に小さな噛み跡っぽいものも見えました。
その日は授業は無くなってあとからで聞いたんですけど、江藤が死体で発見されたっていうんですよ。

あの雑木林で。

結局どうして江藤が死んだのかはわからなかったけど、ウサギを殺した不審者に鉢合わせして江藤も殺されたんじゃないかってことで話は一応終わりました。

でも最近になって、あの小学校で教師をやってるやつに聞いたんです。
なんでもいまでも飼っている動物が殺されることがあるっていうんです。
そいつが赴任してから3回はあったらしいんです。

そういう事件自体頻繁にあるものじゃないですよね?
3回なんて多すぎるんです。

だから誰かが今でもあの小学校で「ハミガミサマ」に願い事をしてるんじゃないかって思うんです。
殺される動物ってつまり「生贄」なんですよ。

あの時俺が「江藤を殺してくれ」って願ったときに「ハミガミサマ」は願いを聞き入れて、飼ってたウサギを生贄として食い殺して、そのあとに江藤を殺したんだって思うんです。

だから俺が江藤とウサギを殺したのと変わらないんですよ。
江藤のことは大嫌いだったけど、ウサギに罪はないですからね。
本当に申し訳ないって今では思ってますよ。

ところで、そんな頻繁に動物が死ぬような事件があってもその小学校は新しい動物をまた飼うんですよね。
これって単に教育のためだけってわけじゃないと思うんです。

だってそうですよね。
もし動物を飼わなくなったとして、誰かが「ハミガミサマ」に祈ったとき「生贄」になるのって「何」になるのかって考えると……。
その学校にいたっては、動物を飼い続けるのってつまりそういう「理由」なんですよね、きっと。

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