一言エッセイ/青磁へのラブレター
青磁の器が好きだ。
臆面もなくペンネームに使うほど好きだ。
気がつけば、目に映るものすべてを青磁に合うか否かで判断している精神状態の時があるほどに好きだ。
何色と聞かれても、青磁色としか答えられないあの色あい。
淡く清廉な風合いのものが、特にいい。
詳しくは知らないが、釉薬と、その上を覆うガラス質から成る光の屈折が、何故こうも私の目に心地よい夢を見させてくれるのか。
すべらかな女性の皮膚に浮く血管のような。
オアシスで、はかない空を映す水面のような。
ひっそりと咲く老梅の、足下にへばりついた地衣類のような。
時空を超えた奥行きが、あの澄んで濁った色のなかに内包されているように思えるのだ。
だからこそ、だろうか。
洋の東西に関わらず、青磁はどんな素材ともよく響き合う。
草枕にいわれるように、練り羊羹は言うに及ばず、春に青菜、夏は素麺、秋には柿、冬は赤ワインで何か煮込んで気取ってみたい。
花だって枝ものだって、菖蒲でもコスモスでも、高野槙でも、なんでも来いだ。
とりわけ、私は黄色を合わせるのを好む。
粉吹き芋のバターのせ、黒コショウかけ。
カリカリに揚げ焼きした目玉焼き。
お稲荷さん。チーズ。半分に切ったグレープフルーツ。
青磁のカップに、黄色い菊なんて短く折って投げ入れた日には、スンとした香りとともに彼方なる魅惑の別世界へ誘われていくようだ。
あ、黄色じゃないけど桃もいいな。
朝顔みたいに広がった菓子鉢に(持ってないけど)産毛の匂い立つような薄紅色の桃を皮ごと乱切り。
ミントの葉を散らしたら、錫のフォークで突き刺したい。
細かい更紗のクロスにそっと置けば、気分はまるでシルクロード!楊貴妃もウットリする美しさじゃありませんか。
白い器は便利だけれど、ちょっと気をつけないとお料理がまずそうに見えてしまう事がしばしばある。
それもあってか、近ごろは黒や染付の器も人気があるそうな。
さて、この辺りでどうか青磁に陽の目を!
お手頃な青磁の器が街の雑貨屋さんにあふれるのを、熱望して已まない今日この頃でございます。