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小話エッセイ/これからブーツカットを穿く君たちへ

「フゥゥーん」
かつて、私の姿を品定めするようにながめ回した母は、ニヤニヤしながらこう言ったものです。
「お母さんも昔てたわぁ、そういうの」

ローライズのブーツカットに、ピタピタTシャツ。
爆発パーマだった私へのコメントです。
「リバイバルやな。あの頃のジーパン捨てるんじゃなかったわ」

——ちゃうわ。
若い私は、なんだかバカにされたような気持ちでソッポを向きました。
あんたらのマネでは決してない。
自分でイイと思ったから着てるんや、ってね。

それから幾星霜の月日が流れた事でしょう。
多くの時代を経て、私たちは「歴史は繰り返す」という事実を、身をもって知りました。

大流行ののち、最ダサの位置づけへと陥落したケミカルウォッシュ。
Tシャツインに、ウェストポーチ。
カメリアレッドの口紅と、テクノカットみたいなヘアスタイル。

私たちの愛したブーツカットも、そろそろの目を浴びる頃合いでしょう。
その時、私たちは叫びます。
——ああ、あのジーンズ捨てんじゃなかった!

なにしろ、3年ほど前にいよいよ見切りをつけてほおむったのと同じ物が、超おしゃれアイテムとして店頭に並ぶのです。
その悔しさ、分かってもらえますか。

たとえ捨ててなかったとしても、着こなせないって分かってるのに。
往生際おうじょうぎわが悪いんです。

だけどあなた方は、それらをサラリとまとって、颯爽さっそうと街を闊歩かっぽする。
その姿の、なんとカッコいいことでしょう。

それはまったく、どう表現していいか分からないほどのまぶしさで、私たちは思わず目を細めることしかできないのです。
そう、爺婆じじばばは決してあなた方をバカにしている訳ではない。
ただただうらやましいだけ。

「あのケミカルウォッシュを!」
「あの、ズボンにインを堂々と・・!」
てなものです。

だからお願い、ゆるしてね。
ニヤニヤ顔のお母さんや、会社の先輩なんかが、
「フゥゥーん、昔てたわぁ、そういうの」
って、すり寄ってくることを。

我々は、あなた方の思う以上に
若い世代が好きであり、あこがれているのですよ。


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