ベトナムの会社における「法定代表者」と「社長」の法的地位の違い
1 社長(Giám đốc)の法的地位
ベトナムの会社で,日本人が「社長」と呼ぶ「Giám đốc(ザムドック)」あるいは「総社長」と呼ぶ「Tổng giám đốc(トン・ザムドック)」は,いずれも意思決定機関としての取締役会が決議した事項や会社の日常業務を執行及び管理する職務をもつ者で,日本の「社長」や「会長」や「頭取」や「店主」などと同じく,社内組織上の役職の呼称になります。
2 法定代表者(Người đại diện theo pháp luật)の法的地位
これらと異なる概念に「法定代表者(Người đại diện theo pháp luật)」というものがあります(企業法13条)。
「法定代表者」は,会社として,第三者と契約を締結したり,訴訟を提起するなど,対外的な代表権を有する者です(企業法14条)。
日本の「代表取締役」は,ベトナムの「総社長」と「法定代表者」の両面を合わせ持つ者と言えますが,ベトナムでは社内的な「総社長」と,社外的な「法定代表者」を,一応区別しています(結果的に兼ねる場合もあります。)。
株式会社を例にすると,企業法134条2項は,定款で法定代表者を指定していない場合には,自動的に「取締役会の主席(Chủ tịch Hội đồng quản trị)」が法定代表者になると規定しています。この場合には,取締役会の主席の名義で,対外的な契約を締結することになります。
多くの会社では,定款で取締役会で選任される「総社長」あるいは「社長」が「法定代表者」である旨が定められています。こうなると,社内的にトップにある「総社長」あるいは「社長」が,社外的にも代表権を有する「法定代表者」を兼ねることになり,日本の「代表取締役」に似た地位に地位と権限を有する者になります。
3 居住要件との関係
この「法定代表者」については,企業法上,少なくとも1名がベトナムに居住している必要があります(企業法13条3項)。
しかし,例えば2名の「法定代表者」を選任し,一人にベトナム居住のベトナム人を充てれば,他の法定代表者は日本に居住したままでも問題はありません。
そして,「総社長」,「副総社長」あるいは「取締役会の主席」については,定款で定める場合を除いて,いわゆる居住要件はありません。
そのため,日越合弁会社では,それぞれ合計2名の「法定代表者」を選任し,ベトナム側の一人に居住要件を充たした上で,実際には,「総社長」,「副総社長」あるいは「取締役会の主席」などの社内組織上の役職を分担し合う(奪い合う)ことになります。
東京で弁護士をしています。ホーチミン市で日越関係強化のための会社を経営しています。日本のことベトナムのこと郷土福島県のこと,法律や歴史のこと,そしてそれらが関連し合うことを書いています。どうぞよろしくお願いいたします。