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一人有限責任会社(CÔNG TY TRÁCH NHIỆM HỮU HẠN MỘT THÀNH VIÊN)の機関設計


 ベトナムで設立する会社には,主に有限責任会社(CÔNG TY TRÁCH NHIỆM HỮU HẠN)と株式会社(CÔNG TY CỔ PHẦN)があり,さらに,前者には,一人有限責任会社(CÔNG TY TRÁCH NHIỆM HỮU HẠN MỘT THÀNH VIÊN,通称「CT TNHH MTV」)と二人以上有限責任会社の二種類があります。
 
 日本企業がM&Aの方法でベトナムに子会社を設置する場合を例に,一番多い一人有限責任会社(CT TNHH MTV)の機関設計について解説します。それは,二人以上有限責任会社では文字通り2人以上の,株式会社においては3人以上の出資者が必要なため,日本企業が100%子会社をベトナムに設立するとなると,必然的に一人有限責任会社になるためです。

 一人有限責任会社の機関には,①会社所有者(Chú sở hữu công ty),②社員総会(Hội đồng thành viên),③会長(Chủ tịch công ty),④社長(Giám đốc)及び⑤監査役(Kiểm soát viên)があります。
 
 唯一の出資者である日本企業は,必然的に①会社所有者となります。
 ベトナムでも有限責任会社への出資者は「社員(thành viên)」と呼ばれていますが,出資者が一人の一人有限責任会社においては,その社員は特に「会社所有者」と呼ばれています(企業法73条1項)。会社所有者には,全知全能とも言える広範な権利・義務が法定されています(企業法75条,76条)。これを法人である会社所有者自身が行うことはできないので,ある自然人を「委任代表者(người đại diện theo ủy quyền)」に選任し,自己を代理させる必要があります(企業法15条)。
 
 会社所有者である日本企業が,その委任代表者を1名とするのか,あるいは複数名(3名以上7名以下)にするかは自由ですが,その選択により,他に必要となる機関が異なってきます。
 まず,委任代表者を1名とした場合(㋐)には,その1名が会社所有者が決めるべき事項を単独で決めることができるので,会議体である②社員総会は理論上も実際上も必要なくなります。そして,会社の重要事項を決める③会長と,日常業務を決定・遂行する④社長が必要となり,加えてこれらを監督する⑤監査役も必要となります(企業法78条1項a)。
 これに対し,会社所有者が委任代表者を複数名選任した場合(㋑)には,これらを構成員とする②社員総会が必要となります。逆に,重要事項は社員総会で決定されるため,③会長は不要となります。その他,④社長と⑤監査役が必須の機関となります。

 以上の機関とは違う概念に「法定代表者(người đại diện theo pháp luật)」があります(企業法13条)。
 法定代表者は,契約を締結したり体外的に会社を代表する権限を有する者です。企業法は,原則として,㋐の場合には会長が㋑の場合には社員総会の長が法定代表者になる旨を規定していますが,定款で別な規定をすることができ(企業法78条2項),多くの会社では,日常的な業務を遂行する社長(や副社長)に代表権も付与するため,定款により,社長を法定代表者としています。

東京で弁護士をしています。ホーチミン市で日越関係強化のための会社を経営しています。日本のことベトナムのこと郷土福島県のこと,法律や歴史のこと,そしてそれらが関連し合うことを書いています。どうぞよろしくお願いいたします。