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ベトナム企業とのM&A 法的枠組


 日本企業のベトナム進出方法としては,現地に子会社を設立する設立方法に加え,既に設立されているベトナム企業を買収する方法,いわゆるM&Aも一般的です。具体的には,ベトナム企業の株式又は持分(以下「株式等」と総称します。)を取得することになります。
 ベトナム企業の株式等の譲受については,ベトナムの企業法や投資法にこれを制限する規定はなく,原則として自由に譲渡することができ,これを日本企業などの外国企業が100%取得することも可能です。
 日本企業は,投資法3条14項が定義する「外国投資家(Nhà đầu tư nước ngoài)」に該当します。そのため,ベトナムに新たに子会社を設立するという方法で「投資」する場合には,当局から「投資登録証明書(Giấy chứng nhận đăng ký đầu tư)」の発給を受ける必要があります(投資法36条1項a号)。
 これに対し,ベトナム企業の株式等を取得する方法(M&A)での「投資」については,「投資登録証明書」の給付を受ける必要はありません(投資法36条2項c号)。また,このM&Aという手法,つまりベトナム企業の株式等を取得する方法による「投資」については,ベトナム国内に(株式取得を目的とした)会社を設立する必要はなく(投資法22条2項),日本企業が日本から直接に行うことができます。つまり,ベトナム当局の許可等の裁量判断を受けることなく,M&Aを実行することができるのです。
 しかし,下記①②のいずれかに該当する場合には,「投資登録証明書」の取得は必要ないものの,当局への「登録(đăng ký)」の手続を取る必要があります(投資法26条1項)。そして,実際の実務では,当局による実質的な審査が行われており,そのため,IRCの新規取得と同様の書類等の提出を求められたり,投資法26条3項b号では,当局は登録申請書類提出後15日以内に結果を通知することになっていますが,これが延びたりするのがむしろ一般的になっています。

①M&A対象ベトナム企業が条件付投資分野に属する事業を行っている場合
②ベトナム企業の株式等を51%以上取得するに至る場合(100%子会社化を含みます。)

 上記①②のいずれにも該当しない場合には,「登録」手続も必要はありません。
 ただし,この場合でも,ベトナムでは,株主または社員変更の手続をとったうえで(投資法26条4項),当局にその旨を通知する必要があります(企業法32条1項及び2項)。
 なお,日本企業にM&Aされたベトナム企業は,“外資”から出資を受けたことになるため,「外資系企業(Doanh nghiệp có vốn đầu tư nước ngoài)」に該当することとなり,その後,当該会社が行う事業については,投資法上,外資系企業としての規制を受けることになります(投資法23条)。

東京で弁護士をしています。ホーチミン市で日越関係強化のための会社を経営しています。日本のことベトナムのこと郷土福島県のこと,法律や歴史のこと,そしてそれらが関連し合うことを書いています。どうぞよろしくお願いいたします。