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コーポレートガバナンス政令に準拠したベトナム上場企業の機関設計

1 取締役の員数とその構成

 取締役(Thành viên Hội đồng quản trị)の員数について,企業法では3人以上11人以下とされていますが(企業法150条1項),この範囲で定款で員数を特定することも可能です。

2 「非業務執行取締役」及び「独立取締役」に関して

 ベトナムでも上場会社については,日本と同様,取締役会を構成する取締役の一定数が「非業務執行取締役」及び「独立取締役」であることが要求されています。

(1) 「非業務執行取締役」について
 上場会社には,2017年コーポレートガバナンスコードに関する政令(以下「CG政令」とします。)が適用されますが,CG政令13条2項は,上場会社について,取締役の総数の3分の1は,会社の具体的な業務に従事しないという意味の「非業務執行取締役(Thành viên Hội đồng quản trị không điều hành)」であることを求めています。

(2) 「独立取締役」について
 会社や株主から独立しているという意味で「独立取締役(Thành viên Hội đồng quản trị độc lập)」は,企業法151条2項が要件を規定しており,例えば「直接または間接的に会社の株式を1%以上保有していない者であること」等が必要とされています。CG政令13条5項は,上場会社について,取締役の員数の3分の1は「独立取締役」であることを要求しています。

3 「取締役会の主席」について

 日本にはない機関として,ベトナムには「取締役会の主席(Chủ tịch Hội đồng quản trị)」があり,後述の社長など業務執行者とは別に,取締役会で選任されます(企業法149条2項i号)。
 取締役会の主席は,取締役の一人として取締役会の決議に加わるほか,取締役会の会議を仕切る議長となり(企業法152条),合わせて株主総会の主座(議長)にもなります(企業法142条2項a号)。もっとも,「主席」や議長と言っても,それ以上の権限を持つものではありませんが,取締役会の主席の唯一の権限として,取締役会の議決において賛否が等しい場合に,主席の票が取締役会の決議となる旨が規定されています(企業法153条9項)。そのため,仮に日越合弁会社でそれぞれ同数の取締役を就任させる場合には,取締役会の主席をどちらが獲得するかが重要になります。

4 業務執行者について
 
 意思決定機関としての取締役会が決議した事項や,会社の日常業務を執行及び管理する職務をもつ者として,総社長(Tổng giám đốc),社長(Tổng giám đốc),副社長(Phó tổng giám đốc)あるいは会計責任者(Kế toán trưởng)などの業務執行者を,取締役会が選任することとしています(企業法157条)。建前としては,業務の意思決定と執行を明確に区別するもので,むしろ日本よりもアメリカに近い制度と言えます。
 このようにベトナムでは必ずしも「(総)社長」=「取締役会のトップ(主席)」ではありません。
 企業法は取締役会の会長が総社長(又は社長)を兼任することを認めています(企業法152条1項)。
 ところが,CG政令12条2項は,取締役会の会長が総社長(社長)を兼任することを禁じています。
 そのため,ベトナムの上場会社では,取締役会の主席(Chủ tịch Hội đồng quản trị)と,総社長(Tổng giám đốc)又は社長(Tổng giám đốc)は,必ず別な人物が就かなければなりません。

東京で弁護士をしています。ホーチミン市で日越関係強化のための会社を経営しています。日本のことベトナムのこと郷土福島県のこと,法律や歴史のこと,そしてそれらが関連し合うことを書いています。どうぞよろしくお願いいたします。