横崎警察署事件簿⑤かけがえのないもの
「あーあ、もう三十六か」美佐江はケーキを頬張りながらぼやいた。
「ほんと、四捨五入すると四十よ。それなのに未だに二人でバースデーケーキ食べてるなんてね」典江は肩をすくめながら言った。
「ノリちゃんはいいわよ。手に職をつけて自分のお店を持って一国一城の主じゃない。それに比べてアタシは、しがない事務員よ」
「でもね、うまくいってればいいけど・・そうじゃないと大変なのよ」
美佐江は急に真顔になると「例の店のせいで大変なの?」と訊いた。
「うん」典江はワインが少しだけ残っているグラ